とらおの有機化学

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McMurryカップリングは低原子価チタンでカルボニルをつなぐ反応

遷移金属を用いた還元的カップリング反応は、ハロゲンなどの官能基を還元しながら炭素ー炭素結合の形成を進行させるもので、最近パラジウムやニッケルなどの利用を中心とした触媒反応の開発、適用範囲の拡大が広く検討されています。

長い間用いられてきた還元を伴う炭素ー炭素結合形成反応のひとつに、二つのカルボニル化合物を連結するものがあります。

その中でも今回はMcMurry反応(マクマリー反応)について考えていきたいと思います。

 

塩化チタンが共還元剤のチカラで真の活性種に

1973年と1974年に相次いで、Mukaiyama(向山)、Tyrlik、McMurryの3グループによって、低原子価のチタンをカルボニル化合物に作用させると、カルボニル基が炭素ー炭素二重結合であるオレフィンとして連結されることが見いだされました。

それぞれ独立して研究成果が報告されたものの、その後McMurryグループによって精力的に追加検討がなされ、この一連の反応は今日ではMcMurryカップリングと呼ばれるようになってしまいました。

日本人としては残念な気分にさせられますね。

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反応の主役であるチタン源としては四塩化チタンもしくは三塩化チタンがよく用いられ、これを還元剤の亜鉛(Zn)や亜鉛ー銅合金(Zn-Cu couple)などと一緒にTHFやジメトキシエタン(DME)溶媒中で加熱することによって、カルボニル基が連結するという反応です。

亜鉛の代わりにアルカリ金属(Li, Na)、マグネシウムやアルミニウム、ヒドリド還元剤であるLiAlH4もチタンの還元剤として利用できるようですが、安全性と利便性から今日ではZnかZn-Cuがメインで使用されています。

試薬として入れる三塩化チタン(TiCl3)自体も一電子還元剤になり得るところですが、McMurryカップリングの活性チタンは、どうやらさらに還元された0価と二価のチタンの混合物だと提唱されています。

一価のチタンも活性種の一つであるという説もあり、はっきりとは分かっていないのでちょっと広く「低原子価チタンが活性種」とされています。

 

反応系内で発生した低原子価チタンが、アルデヒドおよびケトンのカルボニル基を一電子還元してケチルラジカルを発生させます。

このケチルラジカルが二分子近づいてくると、ラジカル同士のホモカップリングが進行して、1,2-ジオールであるピナコールを与えます。

ここまでは他の金属を用いたピナコールカップリングと同様です。

 

その後ピナコールのチタンアルコキシドが活性なチタンによってさらに還元反応を受けて、片方のC-O 結合が開裂し、連続的にもう一つのC-O 結合が切断されて、炭素ー炭素二重結合のオレフィン生成物を与えます。

反応を低温で行なったり、途中で止めたりすればピナコールとして生成物を得られる場合もあります。

 

活性種である低原子価チタンの反応性が、用いるチタン源、溶媒、還元剤の種類によってかなり違うため、それぞれの化合物に合わせて最適化する必要があります。

チタン源にTiCl3·DME錯体、還元剤にZn-Cu、溶媒にDMEを用いる組み合わせが 安定したチタン活性種を得る方法として、本反応のスタンダードになっていますね。

 

オレフィン化を可能にする強力な Ti-O 結合

McMurryカップリングの特徴は、酸素原子との親和性(oxophilicity)の非常に高いチタンを活性種としている点です。

酸素と強い結合を作る元素は他にも色々と知られていますが、チタンは特に強い結合を形成でき、Tebbe試薬などの進行にも大きな駆動力になります。

 

McMurry反応の場合は、まずケチルラジカルのカップリングであるピナコール形成段階でチタンの威力を発揮します。

立体的に混み合ったカルボニル化合物でも、二つの酸素がチタンに引き寄せられてピナコールカップリングが可能になります。

この特徴は、分子内で二つのカルボニル基が連結する環化反応において、環形成が起こりづらい8員環などの中員環や、より大きなマクロサイクルの形成に非常に有効です。

生成物が環歪みのため不安定であるシクロプロパンやシクロブタンなどの小員環ジオールの形成にも、高いエネルギー障壁を超えて環化反応が進行するのも出色です。

 

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また二段階目のオレフィン合成でも、チタンの酸素への高い親和性が効果的に働き、酸化チタンの副生を駆動力にして、炭素ー炭素二重結合の形成に一役買っています。

 

まとめ

 

McMurry反応はこれまで、他の試薬ではなかなか達成できないカルボニル化合物の連結反応を化学者に提供してきました。

おもには二量化反応であるホモカップリングや分子内の環化反応に使われてきましたが、異なるカルボニル化合物間でのMcMurryカップリングも、原料の反応性を制御することによって達成されています。

 

地殻中の元素存在比率でも比較的上位に位置し、多く手に入りやすい遷移金属の一つです。 

多様な酸化度と強力な酸素親和性を武器に、チタンが今後切り拓く新しい化学にも注目し続けましょう!

 

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