とらおの有機化学

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三成分連結反応のStrecker反応でアミノ酸合成

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アミノ酸は、誰もがその重要性を知っている化合物の代表例ですね。

天然から大量に入手できる必須アミノ酸などは、不斉配位子などのキラル源として、あるいは標的化合物のビルディングブロックとして、幅広く有機合成に利用されています。

天然から得られないエナンチオマーや非天然アミノ酸も社会的需要が高く、人工合成が活躍すべき領域と言えます。

アミノ酸を人類で初めて、しかも偶然に人工合成したStrecker反応(ストレッカー反応)について取り上げたいと思います。

 

カルボニル+アミン+シアニドの三成分反応

 

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Strecker反応はアルデヒドおよびケトンなどのカルボニル化合物とアミン、シアン化物イオン(シアニド)が順次反応してα-アミノニトリルを与える反応です。生成物であるアミノニトリルは主に、ニトリルの加水分解によってカルボン酸に誘導されるため、Strecker反応はα-アミノ酸の有力な合成法になります。

反応はまず、カルボニル化合物とアンモニアなどのアミンが反応して、アルデヒドからはアルジミンが、ケトンからはケチミンがそれぞれ系内で生じます。

これらイミンが弱酸性条件で活性化されイミニウムイオンになり、ここにシアニドが付加反応を起こして生成物のアミノニトリルが合成できます。

オリジナルの条件では毒性の強いシアン化水素がシアニドソースとして使用されていましたが、現在では塩化アンモニウムとシアン化ナトリウムを組み合わせて、より安全に操作できる条件が一般的です。

アミンにはアンモニアの他に、1級、2級アミン、ヒドラジンやヒドロキシアミンも使用でき、窒素原子上に多様なバリエーションを加えることができます。

また、三成分目のシアニドはKCNやNaCNなどのアルカリ塩のほかに、トリメチルシリルシアニド(TMSCN)やジアルキルアルミニウムシアニドなどが使用でき、溶媒条件や反応目的に応じて調整されます。

 

イミニウムカチオンで求電子性アップ

一般に、アルデヒドに比べてイミンは求電子性が低く、つまりシアニドの攻撃を受けづらい性質があります。

Strecker反応では弱酸性の条件を用いることにより、アルデヒドとアミンからのイミン形成を促進するとともに、イミニウムイオンとして求電子性を大幅に高めることによって、うまく三成分が組み上がっていきます。

 

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アミノ酸合成では、やはりキラルな生成物を得ることが重要になり、Strecker反応も多くの工夫がなされてきました。

キラルなアミンを持つイミン形成は信頼性の高い方法の一つと言えますが、例えばフェニルアラニンから誘導されるフェニルグリシノール(phenylglycinol)は大量に入手可能なキラル化合物であり、Strecker反応において比較的高いジアステレオ選択性で対応するアミノニトリルを与えます。

Davisらによって開発されたトリル基を有するスルフィンアミド(sulfinamide)やt-Bu基を持つEllmanのスルフィンアミドは、Strecker反応を用いたキラルなα-アミノ酸合成に重要な貢献を果たしてきました。

近年では不斉反応の理想形である、触媒的反応が精力的に検討されて、アルジミンやケチミンからの不斉Strecker反応が開発されていますが、この話はまたの機会に。

 

まとめ

Streckerが偶然発見した本反応を報告した1850年以来、生成物の重要性に後押しされて、Strecker反応は長い間使われ続けてきました。

不斉触媒を用いた反応も開発されるなどますますその重要性が高まっている反応と言え、欲しい置換基をもつα-アミノ酸が簡単に安く手に入る日も近いかも??

 

関連記事です。

 

こちらはβ-アミノカルボニル化合物を合成できるMannich反応に関する記事です。こちらも三成分連結反応のひとつと言えますね。

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 反応機構はだいぶ違いますが、アミンを合成するのにHofmann転位も使えますね。

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 イミニウムカチオンに対する付加反応をメチレン化に利用したEschenmoser反応の紹介記事です。

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