とらおの有機化学

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光延反応はリン−酸素結合を駆動力にした立体反転を伴う脱水反応

酸素との高い親和性を利用した有機反応は数多く開発されていますが、典型元素の中で最も多く利用されている元素はリン原子だと思います。

Wittig反応と並んでリン原子の親酸素性(Oxophilicity)を利用した好例であるMitsunobu(光延)反応について見ていきましょう。

 

リン-酸素結合の生成を駆動力にした脱水反応

光延反応は、1級、あるいは2級アルコールを出発原料にして、アゾジカルボン酸エステルであるジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)やジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD)とともに、トリフェニルホスフィンとカルボン酸などを作用させて、SN2機構で求核剤を導入する置換反応です。

原料のアルコールとカルボン酸(求核剤)、トリフェニルホスフィンをTHFやジクロロメタンに溶解させて、氷冷下で DEAD を滴下していく実験操作が一般的です。

 

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光延反応の反応機構は、まずトリフェニルホスフィンとDEADが反応し、リン原子上にプラス、アゾ基の片方の窒素にマイナスの電荷をもった双性イオン(zwitterion)を生じます。

窒素原子上のアニオンが求核剤と反応し、プロトン化されてプラスチャージのリン原子が残ります。

このリンに対して原料であるアルコールが求核攻撃を起こして、プロトン移動を伴いながらヒドラジンジカルボキシレートを放出し、アルコールがトリフェニルホスフィンによって活性化された中間体を生じます。

最後に、アルコールの根元の炭素原子に対して負電荷を帯びた求核剤が攻撃して、置換反応を起こした生成物が得られます。

 

反応のポイントとしては、求核剤上のプロトンのpKaが13以下である必要があり、より円滑に反応が進行するにはpKa<11が目安になります。

これは、ホスフィンとDEADが反応した活性種である双性イオンが、原料であるアルコールと反応するためには、窒素原子上のアニオンがプロトン化される必要があるためです。

この窒素アニオンの塩基性がそれほど高くなく、効率的にプロトン化されるにはpKaが11程度の酸性プロトンが要求されるわけです。

見方を変えれば、求核剤がアニオンになることによってより求核力が高まることを意味し、反応系内でカチオンとアニオン、求電子性部分と求核性部位が絶妙なバランスを保って進行していることがわかります。

 

光延反応生成物の最大の特徴は、原料と立体化学が反転していることですね。

特に2級アルコールの立体化学の修正に光延反応はよく使われます。

2級アルコールを立体反転する方法には、酸化してケトンとしたのちに還元する方法の他に、光延反応のようにSN2機構で酸素求核剤を付加させる方法がありますが、β脱離反応などの副反応が起こりやすいものがあります。

光延反応では、ニトロ安息香酸を中心とする塩基性の低い求核剤を使用できる点、アルコールを反応系内で脱離基に変換できる点、アルコールが活性化された中間体からのβ脱離が起こる前に、活性化された求核剤により反応が進行する点など、副反応を極力抑制できる仕組みが揃っていることがメリットと言えます。

 

用いる求核剤でバリエーション豊富

 

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もう一つの光延反応の特徴として、求核剤として用いることのできる元素が豊富にあることが挙げられます。

カルボン酸やアルコールを使えば酸素原子が導入できますし、チオールを用いればスルフィドが、アミドやイミド、スルホンアミドやアジドを作用させれば窒素原子を付加させることができます。ヨードメタンや酸ハライドを使用すればハロゲンを導入することも可能です。

さらに、β−ジケトンやβ−ケトエステルを求核剤に使用すると立体反転を伴いながらC-O 結合から C-C 結合に変換することもできます。

 

アルコールから様々な官能基へ変換できる真の意味での有用な反応なんです。

 

弱点としてはやはり、試薬であるトリフェニルホスフィンとジエチルアゾジカルボキシレートから副生するホスフィンオキシドとヒドラジンジカルボキシレートが生成物と分離しづらい点ですね。

いろいろな工夫がされていますが、代替品では試薬が高価であったり、反応自体がうまく進行しなくなったりと問題が起きることもしばしばです。

 

かつては難しかった3級アルコールの光延反応への適用も、向山グループを中心とした精力的な研究によって、近年格段に進歩しましたが、そのあたりの話はまたの機会に。

 

まとめ

 

ホスフィンの高い酸素親和性とアゾジカルボン酸エステルの高い水素親和性を利用した光延反応。

酸化と還元を試薬が受けながら、原料と求核剤から脱水反応をおこし、置換反応を促進するのが本質だと思います。

 

日本人の名前を冠した世界に誇れる有機反応の一つを、皆さんもぜひ活用していきましょう。

 

 

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 リン-酸素結合の強さを使った反応といえばWittig反応が代表格ですね。

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