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Criegee酸化は1,2-アンチジオールも酸化開裂できる有用反応

1,2-ジオールは、生体内での分子認識に欠かせない水素結合供与体であるアルコールを近接して持っていて、生理活性医薬品や機能性分子にも多く見られる官能基です。

ビシナルジオール(vicinal diol)とも呼ばれるこのジオールが隣同士で水素結合を形成できる場合、片方のアルコールがもう一方のアルコールからの水素結合により活性化されており、プロトンの酸性度が上がるなど、単純な水酸基とは異なる化学的性質を示すことがあります。

また、この水素結合が環状構造を形成するため、1,2-ジオールを有する分子全体の形にも影響を与えます。

 

さて、多くの合成化学者は標的分子をつくるために、化学結合をどんどん増やしていく方向に化学反応を行っていくのが一般的です。

中でも炭素-炭素結合は、分子の骨格として利用されることが多く、これら土台を安定して形成するために、有用な化学反応が数多く開発されてきました。

 

一方で、比較的安定な炭素-炭素結合を切断するのも大仕事であり、信頼性の高い切断反応はそれほど多くありません。

 

今回は、先日の過ヨウ素酸ナトリウムに続いて、1,2-ジオールを認識して炭素-炭素結合を切断できるCriegee oxidation(クリーギー酸化)について考えていきましょう。

 

四酢酸鉛が可能する1,2-ジオールの酸化開裂

 

Criegee酸化は、四酢酸鉛[lead tetraacetate: Pb(OAc)4]を酸化剤に用いたジオール炭素-炭素結合の切断反応です。

四酢酸鉛には様々な有用な分子変換を可能にする能力がありますが、代表的な使われ方として、この1,2-ジオールの酸化開裂が挙げられます。

 

Criegee酸化には主に2つの反応機構が考えられています。

 

四酢酸鉛図1

 

まず、原料である1,2-ジオールに対して四酢酸鉛が作用すると、配位子交換が起こり、酸素-鉛結合を形成します。

ジオールが立体的に近い場合は、酸素-鉛-酸素結合を含む5員環中間体を取り、4価の鉛原子がジオール構造から電子を奪うように反応が進行して、2価に還元された酢酸鉛とともに、生成物である2つのカルボニル化合物を与えます。

 

四酢酸鉛図2

 

もうひとつは、オープン型とも呼べるCriegee酸化の反応機構です。

ジオールのうち、片方のアルコールと配位子交換をした中間体に対して、遊離したアセテートアニオンが塩基として作用し、鉛と結合していないアルコールの脱プロトンを起こします。

酢酸鉛を脱離基とするように電子が流れていき、結果として上の反応機構と同じように、2価の酢酸鉛とともに2つのカルボニル化合物を生成します。

 

後者の反応機構のほうが遅い反応であることが知られていますが、この機構は特に立体的な制限により5員環中間体を形成できない時に重要になります。

環状分子であるシクロヘキサンなどに置換したアンチの1,2-ジオールの場合、過ヨウ素酸ナトリウムを使った酸化開裂はうまく進行しません。

対して、今回のCriegee酸化開裂では2番目の反応機構によって、アンチジオールからも反応が進行し、ゆっくりではありますが、ビスカルボニル化合物を得ることができます。

 

四酢酸鉛図3

 

シンのジオールに対する四酢酸鉛の反応性も、対応する過ヨウ素酸ナトリウムより活性で、より早く酸化開裂が起こります。

不安定な化合物の場合に低温でCriegee酸化を行えれば、生成物の収率向上が期待できるため、試す価値が十二分にありますね。

 

四酢酸鉛の取り扱いには注意が必要

 

Criegee酸化をはじめとして、四酢酸鉛は他の酸化剤では難しい、貴重な分子変換を可能にします。

例えばKochi反応では、四酢酸鉛を塩化リチウムとともにカルボン酸に作用させれば、脱炭酸を経由してアルキルクロリドが合成できます。

 

四酢酸鉛図4

 

様々な有用分子変換を可能にしますが、各反応において重金属である鉛をかなりの量使う必要があるのは、注意すべきポイントですね。

毒性のある鉛化合物の取り扱いには注意が必要です。

また、四酢酸鉛は純粋なものは白色個体ですが、酸素に不安定で使用歴が増えるにつれてピンクや茶色に変色しやすく、分解していってしまいます。

デリケートな酸化反応の場合、使用前に再結晶をするなど、再現性を上げるために工夫が必要なのも、少し悩ましいところですね。

 

まとめ

 

Criegee酸化はシン、アンチ、両方の1,2-ジオールに対して炭素-炭素結合切断を実現できる環化開裂です。

炭素-炭素二重結合のオレフィンから、オゾン分解によってビスカルボニル化合物が得られる場合はそれでいいのですが、酸化力の強すぎるオゾンに耐えられない基質の場合は、ジヒドロキシ化とCriegee酸化開裂の二段階というスキームが有効です。

より取り扱いやすい過ヨウ素酸ナトリウムと反応の特徴を相談しながら、うまく使って行きたいものですね。

 

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