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オゾン分解は炭素‐炭素二重結合を切断する酸化開裂反応

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炭素‐炭素二重結合は、σ結合とπ結合によって炭素原子が連結した状態であり、炭素‐炭素単結合よりも結合長が短く、強い結合と言えます。

仮にこの二重結合を切断しようとすると、先述のようにσ結合とπ結合の二つの結合を切らなければならず、大きなエネルギーが必要になります。

この大仕事を達成するひとつの方法として、今回取り上げるオゾン酸化・オゾン分解(Ozonolysis)が広く利用されています。

 

酸素‐酸素結合の不安定さを利用したオレフィンのオゾン酸化

 

オゾン(ozone: O3)は、地球と宇宙を隔てている薄い膜であるオゾン層として、世間に広く名前が知られている分子ですが、その毒性は非常に強く、強烈な酸化能力を有しています。

酸化能力の代表的な例が今回取り上げるオレフィンのオゾン分解です。

 

Ozonolysis-fig.1

 

オゾンは3つの酸素原子が連なった分子構造をしており、中央の酸素がプラスの電荷を、両端のうち片方の酸素がマイナスの電荷を帯びた1,3-双極子(1,3-dipole)で、折れ曲がり構造をしています。

 

このオゾン分子が炭素‐炭素二重結合に対して1,3-双極子付加環化(1,3-dipolar cycloaddition)を起こすことによって、1,2,3-トリオキソランであるモルオゾニド(molozonide)を生じます。

 

ついで、不安定なモルオゾニドは酸素−酸素結合の開裂を引き金とする1,3-双極子付加の逆反応を起こし(retro-1,3-dipolar cycloaddition)、カルボニル基とカルボニルオキシドに分解します。

この時点ですでに炭素‐炭素二重結合が切れているわけですが、分解した二つの成分が再び1,3-双極子付加環化を起こして、モルオゾニドよりも安定なオゾニド中間体(1,2,4-トリオキソラン)を与えます。

オゾニドは低温で安定であり、後処理をする前はこの状態で止まっています。

 

ジメチルスルフィドなどの還元剤を加えると、弱い結合である酸素‐酸素単結合を切るように酸素原子にジメチルスルフィドの硫黄原子が作用し、酸素‐酸素結合の開裂を起点とする電子の流れによって、二つのカルボニル化合物とジメチルスルホキシドを生成物として与えます。

 

オゾンの強い酸化力は要注意

 

オゾン分解の実験操作はまず、原料をジクロロメタンやメタノール、酢酸、あるいはこれらの混合溶媒に溶解させて、-78 °Cに冷却します。

 

3口フラスコなどを反応容器として使い、ガスの流入によって内圧が高まっても圧力が上手く逃がせるよう工夫しましょう。

 

そこに酸素もしくは空気から無声放電によって発生させたオゾン入りの気体を、ブクブク(シュワシュワ?)なるように反応混合物に吹き込みます。

気体と液体の二層反応ですので、なるべく細かい泡にしたものを吹き込み、しっかり攪拌してよく混ざるようにするのが早く反応を進行させるポイントです。

 

Ozonolysis-fig.2

 

アルデヒドを得たい場合にオゾニドの還元によく用いられるのはジメチルスルフィドですが、ジメチルスルフィドによるオゾニドの還元はそれほど早くありません。

-78 °Cの低温から0 °C、あるいは室温で、数時間から基質によっては十数時間回す必要があります。

 

待てない人はトリフェニルホスフィンのほうがスパっと還元が終わっていい場合があります。ただし、トリフェニルホスフィンと副生するホスフィンオキシドを生成物と分離するのが困難な場合もあり厄介です。

 

代わりに亜リン酸エステル(P(OEt)3など)を還元剤に用いれば、抽出操作などで比較的容易に生成物と分離できます。ただし、非常に臭い試薬ですので個人的には好きではありません。

チオ尿素(thiourea)もよく使われる還元剤のようですが、使ったことがありませんのでよくわかりません。機会があれば試してみますね。

 

生成物が塩基性条件に耐えられる場合は、トリエチルアミンを用いても還元処理ができ、亜リン酸エステルよりもマシな匂いで済みます。私は割とよく使います。

 

どの還元方法も一長一短ですので、生成物や目的に応じて後処理方法を選ぶのが肝要ですね。

 

オゾニド中間体に対して酸化処理(過酸化水素水など)を行うと、オゾン分解からひとつのフラスコ内でカルボン酸へ変換できます。

逆に水素化ホウ素ナトリウムなどのヒドリド還元剤をオゾニドに作用させると、カルボニル化合物の代わりにアルコールを得ることも出来ます。

 

二段階目の後処理によって様々な官能基へと誘導できる多様性がありますね。

 

オゾン分解の反応操作で気を付けないといけないのが過酸化物の取り扱いです。過酸化物が残っている状態で濃縮することは大変危険です。

 

青色のオゾン溶液を濃縮する勇者はいないと思いますが、反応溶液が青色になったら窒素ガスでまずオゾンを反応混合物から追い出します。

特に末端オレフィンのオゾン分解では、ホルムアルデヒドが副生しますが、酸素や空気でフローするとギ酸に酸化され、酸による思わぬ副反応が起こり得るので窒素フローがオススメです。

 

青色が残ったままジメチルスルフィドなどの還元剤を入れると、低温であってもオゾンと還元剤が激しく反応しますので、焦らずに待ちましょう。

また、オゾニドの還元も基質によっては遅い場合がありますので、こちらも濃縮する前に注意したほうが無難です。安全第一ですね。

 

 

まとめ

 

オゾン発生装置さえあれば、酸化剤の素である酸素や空気は他の酸化剤に比べて安価であるため、オレフィンのオゾン分解はコスト的にもスケールアップし易い反応です。

なかなか大量スケールで行える酸化反応は多くないので、重宝しますね。

基質によってはオゾン分解の利用により、オレフィンをカルボニル基の保護体として見なすことができ、合成戦略に活用出来ます。

 

関連記事です。

 

2つのカルボニル化合物からオレフィンを作りうるMcMurryカップリングはオゾン分解の逆反応と捉えることもできますね。

www.tora-organic.com

 

こちらはカルボニル化合物をリン原子のちからで炭素−炭素二重結合に変換する定法です。

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アルデヒドをカルボン酸に酸化する場合は、Kraus-Pinnic酸化が有効です。 

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