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過ヨウ素酸ナトリウムは1,2-ジオールの炭素-炭素結合を切断できる酸化剤

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炭素-炭素結合は、有機化学のなかでも基本的な化学結合のひとつです。

多くの有機化学者がこの結合を作るために、何世紀も前から現在にわたって努力を続けています。

多くの炭素-炭素結合は化学的に安定であり、天然物など生物活動で使用される有機分子を形づくる基盤として利用されています。

この強い結合を切るためには、様々な工夫が必要ですが、今回は1,2-ジオールというトリガーを認識して炭素-炭素結合を切断する過ヨウ素酸ナトリウムについて、考えていきたいと思います。

 

過ヨウ素酸ナトリウムは温和な条件でグリコールを選択的に切断する

 

7価のヨウ素化合物である過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4)は、取り扱い易い酸化剤です。

元となるメタ過ヨウ素酸が、pKa = 1.64となかなか強い酸性を示す一方で、そのナトリウム塩である過ヨウ素酸ナトリウムは、基本的には中性の白色結晶です。

酸化剤と言ってもこれまで取り上げてきたような普通のアルコールとは反応しませんが、特定の官能基に対しては有効な酸化剤として利用されています。

 

その代表例が、1,2-ジオール(グリコール)構造を有する炭素-炭素結合の切断です。

 

 

NaIO4-fig.1

 

ビシナルジオール(vicinal diol)とも呼ばれる1,2-ジオールの過ヨウ素酸による酸化開裂の反応機構は次のように考えられています。

1,2-ジオールに対して過ヨウ素酸ナトリウムが作用すると、酸素-ヨウ素-酸素結合を含む5員環の中間体を形成します。

7価のヨウ素原子は過度に酸化された状態であり、外部から電子を奪って還元されたがっているわけですが、この反応では、5員環中間体の1,2-ジオール構造から電子を奪うことによって、5価のヨウ素酸誘導体に変換されます。

この過程でビシナルジオール間の炭素-炭素結合が切断され、結果として2つのカルボニル化合物に酸化開裂されます。

 

少しわかりにくいかもしれませんが、ジオールの酸素原子についていた2つのプロトンが水素分子として原料から奪われていると考えると、ジオールが酸化されているのが理解しやすいかもしれませんね。

水素分子が付加するのは還元ですので、その逆反応で酸化ということです。

 

過ヨウ素酸ナトリウムによる酸化開裂はシンのジオールに対して有効

過ヨウ素酸ナトリウムを使った酸化開裂は、1,2-ジオールであればいつでも起こるわけではありません。

 

NaIO4-fig.2

 

例えばシクロヘキサンのような環状分子において、炭素環に対して反対面に置換したアンチ(anti)の1,2-ジオールの場合、過ヨウ素酸を含んだ5員環中間体構造をとることが出来ません。

この場合は全く反応しないか、進んだとしても極めて遅い酸化開裂になってしまいます。

一方で、ジオールが同一面に置換したシン(syn)の1,2-ジオールの場合は、問題なく中間体を形成でき、ビスカルボニル化合物を与えます。 

アンチジオールのような場合は、四酢酸鉛を用いたCriegee酸化を代わりに用いると、うまくいく場合がありますね。

 

酸性を示す過ヨウ素酸はエポキシドの酸化開裂を可能にする

 

さて、過ヨウ素酸ナトリウムはマイルドな酸化剤であり、とても扱いやすい試薬なのですが、その親ともいえる過ヨウ素酸には、ナトリウム塩が苦手な分子変換を可能にすることがあります。

それは、エポキシドから炭素-炭素結合の切断を伴う酸化開裂です。

 

NaIO4-fig.3

 

酸性を示す過ヨウ素酸は、エポキシドをブレンステッド酸として活性化することができ、生じたカルボカチオンに対して過ヨウ素酸の酸素原子が付加反応を起こすことよって、5員環中間体を形成できます。

ここから酸化開裂が進行し、ビスカルボニル化合物が得られるわけです。

二重結合からエポキシドが容易に合成できる場合に、とても重宝する変換スキームになりますね。

もちろん酸性試薬ですので、酸に不安定な官能基がある場合は注意する必要があります。

 

酸化触媒の再酸化とスルフィドの一段階酸化にも有効

 

NaIO4-fig.4

 

過ヨウ素酸ナトリウムの有効利用法として、酸化触媒の再酸化剤としての利用も重要ですね。

例えば、酸化オスミウムとともにオレフィン化合物に作用させれば、オスミウムによるジヒドロキシ化とジオールの酸化開裂が1つのフラスコで行えます。

加えて、オレフィンをジヒドロキシ化したことによって6価に還元されてしまったオスミウムは、過ヨウ素酸ナトリウムが再酸化することができ、アクティブな8価の酸化オスミウムを再生できます。

このため、毒性の高いオスミウム化合物を最小限の使用量で済みます。

 

もう一つの重要な利用法として、スルフィドの酸化反応が挙げられます。

適度に弱い酸化剤である過ヨウ素酸ナトリウムは、スルフィドからスルホキシドへの一段階酸化に有用です。

m-CPBAを使って注意深く反応を行えば、スルホキシドを高収率で得ることもできますが、より安価な過ヨウ素酸ナトリウムは大量スケールでのスルフィドの酸化に向いてますね。

 

まとめ

 

過ヨウ素酸ナトリウムと過ヨウ素酸は、1,2-ジオールの切断反応に非常に有用な反応です。

ナトリウム塩は水以外の溶媒への溶解性が低いため、有機溶媒と水の適切な混合溶媒を反応に用いないと、全然反応が進行せず、「あれ、過ヨウ素酸ナトリウム、失活してるのかな?」ってなりますので、注意が必要ですよ。

 

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こちらはオゾン酸化の紹介記事です。強力な酸化力により、オレフィンを直接ビスカルボニル化合物に変換しますね。

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1,2-ジオールから始まる化学を語るには、ピナコール転位も欠かせません。

セミピナコール転位も魅力的ですね。

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