とらおの有機化学

有機化学について考えるブログ

Overman転位は[3,3]シグマトロピー転位を利用した窒素原子導入法

おしゃれな有機合成を目指すとらおにとって、離れたところにある立体化学情報を、別の位置の立体化学を作るのに転写するのは、魅力的な分子変換です。

加えて、元素の種類も思いのまま入れ替えられたら、さらにおしゃれ度がアップするわけです。

シグマトロピー転位が、この手の反応の代表格と言えると思いますが、今回は二重結合の位置を変えながら酸素原子を利用して窒素原子を導入できるOverman rearrangement(オーバーマン転位)を取り上げましょう。

 

アリルアルコールからアリルアミンを合成するオーバーマン転位

[3,3]-シグマトロピー転位の一つであるOverman転位は、アリルアルコールを原料として、アリルアミンを合成する反応です。

特にトリクロロアセトニトリル(Cl3CCN)を反応試薬として用いることによって、シグマトロピー転位の活性化エネルギーを下げることに成功した点が大きな特徴ですね。

Overman rearrangement-fig.1

反応は原料であるアリルアルコールに対して、触媒量の塩基とともにトリクロロアセトニトリルを作用させます。

3つのクロロ基で活性化されたニトリルは求電子性が高く、酸素原子の求核攻撃を受けることによって中間体であるトリクロロアセトイミデートを形成できます。

このイミデート中間体を加熱処理することによって、6員環遷移状態を経由した[3,3]-シグマトロピー転位が進行し、生成物であるアリルアミンを与えます。

トリクロロメチル基が置換していないイミデートでは200 °C以上の加熱が必要な場合が多いのですが、電子吸引性官能基によって、炭素-酸素結合が切断されやすい状態になっています。

そのため、100~140 °Cの比較的低温でも転位反応が進行してくれますね。

 

キラルアリルアルコールからは不斉転写が進行するオーバーマン転位

同じ[3,3]-シグマトロピー転位であるClaisen転位でもそうですが、原料であるアリルアルコールの根元が不斉炭素の場合、Overman転位で得られる2級以上のアリルアミンに立体化学が転写されることが知られています。

遷移状態の6員環コンホメーションにおいて、イス型の遷移状態を経由することによって、炭素鎖の1位から3位へ立体化学が受け継がれるわけです。

 

有機化学では、アルコールの立体選択的合成の方が信頼性の高い構築法が多い印象です。

その優位性を利用して、医薬品や生体機能分子に重要なアミノ基の不斉中心を効率よく導入できるOverman転位反応は、天然または非天然のアミノ酸を中心とする原料供給に活躍していますね。

 

Overman転位のいいところは、原料であるイミデートよりも生成物のアリルアミドの方が安定であるため、1級のアリルアルコールから3級のアリルアミンを合成できるなど、応用範囲がとても広い点が挙げられます。

また、[3,3]-シグマトロピー転位直後のトリクロロアセトアミドも3つのクロロ基で活性化されているため、一般的なアミドよりも加水分解が進行しやすく、比較的簡単に無保護のアミノ基を得ることができるのも利点のひとつですね。

 

水銀やパラジウム触媒のチカラでより低温なオーバーマン転位

熱的なOverman転位反応では、140 °C程度の加熱が[3,3]-シグマトロピー転位の進行に必要なのが一般的です。

一方で、オレフィンの活性化に有効なπ酸性ルイス酸である水銀やパラジウム触媒を使った1,3-アミノ転位反応も同じOverman転位生成物を与えます。

Overman rearrangement-fig.2

金属触媒によって活性化されたオレフィンに対して、イミデートの窒素原子が6-endo環化を起こし、続いて炭素-酸素結合を切断するように電子が流れて、触媒の再生とともにアリルアミンを与えます。

この反応機構は[3,3]-シグマトロピー転位ではありませんが、室温付近でもOverman転位を進行させることができることから、よりマイルドな改良法と言えますね。

 

まとめ

アルコールの立体化学を利用してアミノ基を選択的に導入できるOverman転位は、他の方法では難しい多置換アミンの不斉合成に用いることができます。

不斉触媒を活用した不斉Overman転位など、応用例と汎用性が広がり続けている有用な分子変換ですね。

天然に豊富に存在する不斉源である糖類を原料にしたOverman転位の活用が、慶應義塾大学の千田先生のグループによって積極的に展開されています。

Overman転位の有用性は折り紙付きですね。

 

関連記事です。

こちらは代表的[3,3]-シグマトロピー転位であるJohnson-Claisen転位に関する記事です。オルトエステルが鍵ですね。

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 Ireland-Claisen転位ではケテンシリルアセタールが転位反応の重要中間体ですね。ジアステレオマーを作り分けるシグマトロピー転位に注目です。

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