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Barton-McCombie脱酸素化は炭素ラジカルを利用した還元反応

Barton-McCombie

Barton-McCombie deoxygenation / バートン-マクコンビー脱酸素化

基本的な官能基のひとつであるアルコール(水酸基)は、極性官能基として非常に重要であり、多くの有機反応や分子認識の足掛かりとなります。

しかしながらワガママな化学者は、時々このアルコールを無くしてしまいたい衝動にかられます。

アルコールをヨウ素などへ変換した後にヒドリド還元することも可能ですが、この記事では、ラジカル機構で脱酸素化をおこなえるBarton-McCombie反応について考えていきます。

Barton-McCombie反応の原料はチオカルボニル化合物

Barton-McCombie反応は、BartonーMcCombie還元、BartonーMcCombie脱酸素化とも呼ばれ、酸素原子を対象化合物から取り除く反応になります。

脱酸素化した部分が水素化される場合が多いので、ラジカル還元のひとつとも言えますね。

 

多くのアルコール誘導体からBarton-McCombie反応を行うことができますが、代表的なものにXanthate(ザンテート、キサンテートもしくはキサントゲン酸エステル)を経由するものがあります。

 

Barton-McCombie-fig1

 

原料であるアルコール(水酸基)のプロトンに対して、NaHやKHなどの塩基を作用させることにより、アニオンであるアルコキシドを発生させることができます。

このアルコキシドに対して、二硫化炭素(CS2)を作用させると、アルコキシドがCS2の炭素原子に対して付加反応を起こし、硫黄のアニオンであるチオレート(チオラート)が生じます。

そこにヨードメタンなどのアルキル化剤を加えると、S-アルキル化が進行し、ザンテートを与えるわけです。

Barton-McCombie脱酸素化の反応機構

上のようにして得られたチオカルボニル化合物に対してBarton-McCombie脱酸素化を行った例が、下の反応機構です。

Barton-McCombie-fig2

 

単離したXanthateを水素化トリブチルスズとAIBN(azobisisobutyronitrile)とともに不活性ガス雰囲気下で加熱処理を行うと、系内で生じたスズラジカルが硫黄原子と反応し、結果的に原料のアルコールが置換していた根元の炭素上に、炭素ラジカルを発生させることができます。

その後、系内に存在する水素化トリブチルスズによって、この炭素ラジカルが水素化されることにより、もともとは炭素-酸素結合だったところが炭素-水素結合に置き換わり、還元されたことになります。

親和性の絶妙なバランスで進行するBarton-McCombie脱酸素化

Barton-McCombie反応は、とても興味深い多くの素反応から構成されています。

それぞれの素反応を細かく見ていきましょう。

 

Barton-McCombie-fig3

 

まずは、ラジカル開始剤からスズラジカルの発生です。

よく用いられるAIBNの場合、アゾ化合物が加熱されることによって、非常に良い脱離基である窒素の放出を駆動力(driving force)に、炭素ラジカルを2分子発生できます。

生じる炭素ラジカルは、相対的に安定な3級ラジカルであることに加えて電子吸引基であるニトリルによる安定化も加わり、十分な寿命を持つラジカルです。

この炭素ラジカルが、水素化トリブチルスズのSn-H結合から水素原子を奪うことによって、スズラジカルへとつながっていくわけですが、

1)半減期のあるAIBNを適切な温度で分解することで炭素ラジカルが少しずつ供給される点、

2)出てきた炭素ラジカルが水素原子と親和性が高い(C-H結合が強い)点、

3)スズ−水素(Sn-H)結合が比較的弱い結合でありホモリティック(ラジカル的)に開裂しやすい点、

これらがうまく連動することで、程よい濃度のスズラジカルがフラスコ内に存在できます。

 

続いて、スズラジカルが原料であるXanthateの硫黄原子に作用します。

Barton-McCombie

 

スズラジカルがチオカルボニル基に作用すると、C=S二重結合が不均一開裂し、スズー硫黄(Sn-S)結合が形成されながら、ザンテート由来の炭素上に3級ラジカルが発生します。

3級炭素ラジカルからさらに反応が進行し、ザンテート由来の炭素と酸素原子間での二重結合形成、アルコール由来の炭素−酸素結合の開裂によって、原料からアルコールが除去された炭素ラジカルを与えます。

Barton-McCombie

ここまででも注目すべき点として、

1)スズラジカルと硫黄原子の親和性が高く、「スズラジカル+C=S二重結合」よりも「CーSーSnの単結合+3級炭素ラジカル」になる方がエネルギー的に安定な点、

2)3級ラジカルから「C=O二重結合+アルコール由来の炭素ラジカル」を与えるプロセスが、上の図で青矢印で示した「C=S二重結合+メチルラジカル」を生じる他のプロセスよりも有利な点、

が相まって、狙い通りに水酸基の除去が達成できています。

 

最後の脱酸素化された原料由来炭素ラジカルも、水素との親和性が高く(C-H結合がSn-H結合より強い)、スズラジカルを再度発生させながら生成物である水素化体(還元体)を与えます。

 

Barton-McCombie

それぞれのラジカルの濃度と各元素との親和性の高さ(結合の強さ、弱さ)がバランスよく、それぞれの仕事を行うことでうまく行く反応になります。

 

まぁ実際は、全部混ぜて脱気して加熱するだけの反応なんですけどね。

 

まとめ

 

ラジカル反応の中でも、最も有名でよく使われるBarton-McCombie反応は、中性条件で進行する脱酸素化反応です。

本反応で発生させられる原料由来の炭素ラジカルは水素化(還元)反応以外にも、炭素-炭素結合形成やハロゲンへの官能基化など、多くの分子変換に利用することができます。

アルコール由来の立体化学が消失することを利用した分子変換も容易であるため、合成化学者のセンス次第で多様な目的に活用することができる有用な反応です。

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