とらおの有機化学

有機化学について考えるブログ

AIBN系ラジカル開始剤で快適なラジカル生活

カチオン反応やアニオン反応などのイオン反応は、多くの有機反応の中に組み込まれており、静電反発やクーロン力などを含めて多くの化学反応を実現します。

 

一方で、不対電子を有する化学種であるラジカルは電気的に中性の場合も多く、イオン反応とは違ったタイプの化学変換を達成できます。

このラジカル反応を進行させるためには、いくつかのトリックが必要なのですが、AIBNに代表されるアゾ系ラジカル開始剤は、異なる特性をもつもの、親油性・親水性官能基を有するものなど多様な種類が市販されています。

本日は、とらおの備忘録としてAIBN系のラジカル開始剤を紹介したいと思います。

 

光や熱分解で発生するAIBNの3級炭素ラジカル

 

AIBN-fig1

 

昨日の記事で取り上げたBarton-McCombie脱酸素化にも登場しましたが、アゾ系ラジカル開始剤の中でも最も代表的なものはAIBN(azobisisobutyronitrile)です。

私は知りませんでしたが、アセトン、ヒドラジン、シアン化水素から誘導されるヒドラジドを酸化することにより、アゾ化合物を合成しているようですね。

 

このAIBNを光照射や加熱処理することにより、2つの炭素−窒素結合が均一開裂を起こし、比較的安定な3級炭素ラジカルを2分子と窒素分子をガスとして放出します。

非常に良い脱離基である窒素分子を副生することが駆動力となって、高エネルギー化学種であるラジカルを発生できるわけです。

 

置換基の種類によりAIBN系開始剤の活性化温度をコントロール

 

アゾ系ラジカル開始剤の優れた点は、アゾ化合物に置換する官能基を様々変えることによって、ラジカルの発生温度や親水・疎水性などの試薬の性質を制御できるところです。

研究室レベルでも使用できるアゾ系ラジカル開始剤が、試薬会社から数多く購入可能であり、以下では和光純薬さんの例を紹介させていただきます。

 

AIBN-fig2

 

よく使われるAIBNの10時間半減期温度は65 °Cです。

これはすなわち、65 °Cで加熱した場合に、試薬の総量の半分は分解して、半分はAIBNのまま残っている、という状態になります。

 

ラジカル反応では、原料・生成物の安定性や活性化エネルギーに合わせて適切な温度帯で反応を行うのが肝要です。

V-70は室温付近(〜30 °C)でもラジカル開始剤として作用する優れた試薬になります。基質の安定性が悪かったり、化学選択的なラジカル反応を進行させたい場合などに有用ですね。

一方で、望みのラジカル反応が進行する温度が高温の場合、V-70などでは開始剤の消費が早すぎて、うまく活性化エネルギーを超えられる温度でラジカルを存在させられないことがあります。

そんな時は、V-40やVAm-110など高温対応の開始剤がラジカル開始剤として活躍できるわけです。

 

AIBN-fig3

 

ラジカル反応の面白いところは、水中でも反応が進行するところです。

通常のイオン反応では、カチオンは水による溶媒和が進行、アニオンは水分子によってプロトン化されることが多く、活性の高い状態を保つことができないことが多いです。 

興味深いことに多くのラジカル反応は、水によって反応停止(クエンチ)されることなく、様々な分子変換を可能にします。

これは、仮に炭素ラジカルなどが水と反応するとなると、水分子から水素原子を奪うことが考えられるのですが、その後に生じるヒドロキシルラジカル(·OH)が高エネルギー化学種であり、非常に生成しづらい特徴があります。

そのため、炭素ラジカルや他のラジカルのままの方が安定な場合が多く、水とは不干渉なわけです。

上図のように、水に溶けるように工夫された官能基をもつアゾ系ラジカル開始剤も豊富にラインナップされており、高分子合成をはじめとするラジカル反応の活躍の場を大きく広げています。

 

詳しくは、和光純薬さんのホームページをご参照ください。

外部リンク

www.wako-chem.co.jp

 

まとめ

 

AIBNに代表されるアゾ系ラジカル開始剤は、基本的に中性の化合物でありトリエチルボランやジエチル亜鉛よりもマイルドな反応条件を提供しうる優れた試薬です。

 

適度な温度制御で多様なラジカル反応の起爆剤となるアゾ系ラジカル開始剤の活躍は、これからも多くの需要があるところでしょう。

 

 

関連記事です。

 

 

 

最も有名なラジカル反応の一つ、Barton-McCombie脱酸素化に関する記事です。 

www.tora-organic.com

 

 アゾつながりで、こちらはアゾカップリングを紹介しましたね。

www.tora-organic.com

 

 Birch還元はラジカルを経由する還元反応の代表例ですね。他の反応では達成し難い分子変換が魅力です。

www.tora-organic.com