とらおの有機化学

有機化学について考えるブログ

Pummerer転位はスルホキシドから拡がる官能基変換

スポンサーリンク

有機化学では、それぞれの元素の特徴を生かしながら多様な分子変換を実現しています。

分子の骨格を作っていく炭素ー炭素結合(C-C結合)の形成は重要ですが、得られた生成物から次の反応に向けて準備する官能基変換は非常に大切な化学反応です。

今回は、硫黄やセレン元素から様々な官能基へ誘導可能な Pummerer転位(プーメラー転位)について考えていきましょう。

 

 Pummerer転位の反応機構

f:id:tora-organic:20171216185157p:plain

α位に水素を有するスルホキシドに対して、活性化剤である無水酢酸(Ac2O)を酸触媒、もしくは塩基とともに作用させると無水酢酸によって活性化されたスルホキシドのα位プロトンが脱離して、acylsulfonium ylideが生じます。

続いてアセテートの脱離が起こるとthionium cation等価体が発生し、先に脱離したアセテートがカチオン性を有する炭素原子に付加すると、生成物のα-アセトキシスルフィドが得られます。

仮に、生成物のα-アセトキシスルフィドのアセチル基部分を加水分解させれば、チオールの脱離とともにアルデヒドやケトンを与える反応になります。

全体的に見れば、原料にある硫黄が還元されて隣の炭素が酸化される、という反応と言えますね。

 

生成物のアセトキシスルフィドのアセテートをβ脱離させればビニルスルフィドへも変換可能です。

活性化剤としては無水トリフルオロ酢酸(TFAA)やブレンステッド酸やルイス酸(TMSOTfなど)も使用でき、多様な官能基を持ったスルフィドに変換できることも魅力のひとつですね。

 

Pummerer転位で拡がる合成戦略

Pummerer転位が重宝されるのは硫黄を使ったケミストリーの発展性の拡充です。

 

出発原料であるスルホキシドと、一つ酸化度の低いスルフィドは、硫黄原子のα位炭素のマイナスイオン(アニオン)を安定化する一方で、様々な求電子剤に対して置換反応を起こす十分な求核力を持っており、C-C結合形成を中心とした分子骨格の構築に非常に有用な原子団です。

ただ、得られるスルホキシドやスルフィドが目的化合物にそのまま含まれているケースはあまりなく、別の官能基への変換が必要なことが少なくありません。

Pummerer転位は、化学者のこの要望に非常にマッチした反応であり、使い勝手のよいアルデヒドやケトンへと合成ルートを拡げる優れた官能基変換反応です。

 

原料スルホキシドの両端にα位プロトンがある場合は、より酸性度の高いプロトンを有するα炭素上で転位反応が進行しますが、通常はチオフェノール誘導体などのアリールスルホキシドを利用しますので、位置選択性を考える必要がない場合が多いと思います。

 

インドールなど求核性炭素を有する原子団を分子内に配置させることで、中間体のthionium cationに対して付加反応を進行させて、C-C結合を作ることもできます。

また、活性化剤と一緒にヨウ化物イオンを共存させておくと、スルホキシドをスルフィドへと還元できる場合もあり、多様な場面で重宝する転位反応です。

 

まとめ

活性化剤は、無水酢酸よりもより温和な条件で転位反応と続く加水分解が行えるTFAAの方が個人的にはオススメです。基本的に待てない性格なので。

Pummerer転位には様々に活性化された中間体が含まれており、工夫次第では新しい合成手法が見つかる可能性がまだまだあります。

合成戦略をPummerer転位で繋ぎ、有機合成の新世界を開拓しませんか?

 

関連記事です。

 

転位反応の中でも、立体保持型の転位特性を利用したアミン合成は強力な合成手法です。代表格のCurtius転位に関する記事です。

www.tora-organic.com

 

 炭素骨格の転位反応といえば、Wagner-Meerwein転位が有名です。

www.tora-organic.com

 

 ピナコール転位、セミピナコール転位は転位する方向を制御しやすい骨格変換ですね。この記事は、セミピナコール転位について考えたものです。

www.tora-organic.com