とらおの有機化学

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Parikh-Doering酸化は塩基性条件で進行する温和な酸化反応

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アルコールの酸化反応の中でもジメチルスルホキシド(DMSO)を酸化剤とする酸化反応は、試薬が安価であること、入手のしやすさ、実験手順の簡便さなど化学者にとってメリットが多く、酸化反応の一大勢力です。

今回は、特に温和な酸化条件であるParikh-Doering酸化(パリック-デーリング酸化)をご紹介します。

 

SOpyが活性化剤のパリック-デーリング酸化

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実験操作は、DMSOと酸化したい1級および2級アルコールのジクロロメタン溶液に対してトリエチルアミンを混合させ、0 °Cもしくは室温でsulfur trioxide-pyridine 錯体(SO3·py)を加えるだけ。
しばらく待つとアルデヒドやケトンが得られるお手軽な反応です。
 
反応機構は、まずDMSOの酸素原子がピリジンと錯形成したSO3により活性化されます。
つづいて原料であるアルコールの酸素原子が硫黄原子に求核攻撃を起こして、アルコールが活性化された中間体を与えます。
この中間体に対して、トリエチルアミンなどの塩基が作用すると、他のDMSO酸化と同様、DMSO由来のメチル基のプロトンが塩基によって引き抜かれ、その後に分子内で酸化される炭素から脱プロトン化と、続く脱離によってアルデヒド・ケトンを与えます。
 
反応性のポイントは、アルコールの酸素よりもDMSOの酸素原子の方が、先にSO3·pyに対して求核攻撃を起こすことで、共存させた条件でもうまく酸化反応が進行するんですね。
 
本反応で発生する活性種は、Swern酸化やMoffatt酸化を中心とするDMSO酸化の活性種の中でも安定なため、特別に低温にする必要もなく室温付近で反応が行えます。
裏を返せば反応速度が遅く、立体的込み合ったアルコールの酸化へはSwern条件ほど適用範囲が広くありません。
 
一方で、Swern酸化で副反応として問題となるアルコールのメチルチオメチル(MTM)エーテル化は、本条件ではあまり見られないなど、大きな利点もあります。
個人的にも原料が消えないでなかなか進まない経験はあるものの、反応自体はキレイに進行する印象ですかね。
 

終始塩基性条件で酸化が行える貴重な条件の一つ

とらおが特に気に入っている特徴として、初期段階からトリエチルアミンなどの3級アミンを加えられる点です。
これは、オルトエステルなどの弱酸にすら耐えられない官能基を有していても、酸化反応を行えることにつながります。
また、反応中にたとえ原料が消失しないで止まってしまった場合でも、試薬を追加することができますので、実験者に心のゆとりを与えます。
Swern条件では後戻りできないので。
 

まとめ

 
Parikh-Doering酸化は、他のDMSO酸化と同様に酸化が進行すると悪臭を放ちますが(ジメチルスルフィドの副生)、ルテニウムやクロム酸塩などの重金属試薬を使わないことも好ましいですね。
ただし、なかなか1当量の試薬では反応が完結せず、割と高いSO3·pyを過剰量使わないといけないのは、注意が必要です。
 
ちなみにDMSOを入れない条件は、アルコールを硫酸エステルに誘導する定法のひとつです。DMSOを入れ忘れないように注意するとともに試薬の役割、入れる順番を考えるクセをつけちゃいましょう。
SO3·pyを最後に入れるのが無難でオススメです。
 
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こちらはDMSO酸化の代表選手、Swern酸化です。反応操作に慣れれば、かなり信頼性の高い酸化法ですね。

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酸化法には色々ありますが、近年適応範囲が拡大され再注目されたIBX酸化に関する記事です。

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 PCCは酸性を示す酸化剤の代表例ですね。Parikh-Doering酸化とは異なる条件ですので、基質によってはこちらの方がよい場合もありますね。

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