とらおの有機化学

有機化学について考えるブログ

Simmons-Smith反応はシクロプロパン合成の主力反応

環状炭素骨格の中でも最小単位であるシクロプロパンは、3つの炭素が三角形型に連結したものであり、バナナ結合とも呼ばれる折れ曲がったσ結合で三角形を作っています。

歪みのある分子骨格なので一見不安定に見えますが、炭素3つのシクロプロパン、酸素原子が1つ入ったエポキシド、窒素が1つ入ったアジリジン、酸素2つ炭素1つのジオキシランなどなど、結構多くの化学種が三角形を作ることができます。

 

今回は、オール炭素の三角形分子であるシクロプロパン合成に欠かせないSimmons-Smith reaction(シモンズ・スミス反応)について考えて行きたいと思います。

 

亜鉛カルベノイドが可能にするシクロプロパン形成

Simmons-Smith反応は、ジヨードアルカンと亜鉛により調製される亜鉛カルベノイド化学種によって、炭素炭素二重結合(オレフィン)がシクロプロパン化される反応です。

Zn-Cuカップル(亜鉛-銅合金)を使う方法が広く使われていた一方で、亜鉛金属の代わりにジエチル亜鉛を使う古川法が反応の再現性がよく、現在のスタンダードになっていますね。

炭素源としては、シンプルなシクロプロパンが得られるジヨードメタンが一番使われています。

Simmons-Smith-fig.1

反応はまず、亜鉛金属やジエチル亜鉛などによってジヨードメタンが活性化され、酸化的付加もしくは置換基交換が進行した有機亜鉛反応剤が生成します。

この活性種がオレフィンに対して作用し、2つのσ結合を作りながら環化が進行して、生成物であるシクロプロパンを与えます。

 

新しい2つの炭素-炭素結合は協奏的に(同時に)形成されるため、原料オレフィンの幾何異性を保ったシクロプロパンが得られてきますね。 

そのため、Simmons-Smith反応は立体特異的なシクロプロパン化であり、現代有機化学において代表的な分子変換として広く利用されています。

シンプルなオレフィン、α,β-不飽和ケトン、エノールエーテルなど様々な炭素-炭素二重結合に対してシクロプロパン化が進行する点も、重宝されている理由ですね。

 

Simmons-Smith反応の反応機構は、まだ議論の余地があるそうですが、中村先生らによって提唱されたメカニズムは、電子豊富なオレフィンの方がSimmons-Smith反応に対してよりアクティブである特徴をよく説明しています。

 

J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 2341-2350

Simmons-Smith-fig.2

ヘテロ原子の誘導効果でジアステレオ選択的なシモンズ・スミス反応

Simmons-Smith反応は、立体障害に敏感な面があるため、オレフィンの両面で立体的な差があれば、より空いている方の面からシクロプロパン化が進行します。

一方で、アルコールやアミン、エーテルに代表されるルイス塩基性を持った隣接基がある場合は、ジアステレオ選択的なシクロプロパン形成が容易なことが挙げられます。

Simmons-Smith-fig.3

例えば5員環や6員環の環状アリルアルコールやホモアリルアルコールでは、アルコールと同一面側から有機亜鉛試薬がオレフィンに接近するため、生成物の立体化学の予想がかなり正確に行えます。

これらの試薬配向性官能基は、近接した二重結合でのシクロプロパン形成を促進し、複数のオレフィンがある原料においては位置選択的な反応も可能にしますね。

 

まとめ

シクロプロパンは、機能性分子や医薬品をはじめとする多くの有用有機分子に組み込まれた炭素骨格です。

ステロイドの生合成経路や殺虫作用のある菊酸などの天然物にも見られ、独特の3次元構造と化学結合をもった三角形炭素が可能にする化学がこれからも見出されると思いますよ。