とらおの有機化学

有機化学について考えるブログ

Shapiro反応はケトンからビニル求核剤へ変換できる有用反応

有機化学に多く見られる官能基のひとつとして、カルボニル基であるケトンが挙げられます。

C=O二重結合を有するケトンは、炭素原子がδ+、酸素原子がδーとなっているため、カルボニル炭素は求核攻撃を受けやすい性質がありますね。

ケトンを利用した有機合成反応は数多く存在しますが、今回は、炭素-炭素二重結合を形成しながら、ケトンが求核剤に変身するShapiro reaction(シャピロ反応)を取り上げたいと思います。

 

シャピロ反応はトシルヒドラゾンを起点とするビニルアニオン形成反応

 

Shapiro反応でよく用いられる原料は、ケトンから合成できるN-トシルヒドラゾンです。

 

Shapiro-fig.1

 

α位に水素原子を有するケトンに対してトシルヒドラジドを作用させると、トシル基が置換していない側のヒドラジン窒素原子がケトンに対して求核攻撃を起こし、脱水とともにN-トシルヒドラゾンを与えます。

 

Shapiro-fig.2

 

ここからがShapiro反応の本番なのですが、調製したN-トシルヒドラゾンに対して低温条件でゆっくりとブチルリチウムを滴下していくと、まず1当量目のブチルリチウムによって最も酸性度の高いトシルヒドラゾン水素原子が脱プロトン化します。

続いて2当量目のブチルリチウムを反応系内に導入すると、ヒドラゾンのイミンα位に相当する炭素から2回目の脱プロトン化が進行し、ジアニオン中間体を与えます。

 

低温で発生させたこのジアニオン中間体を昇温すると、カルボアニオンからの電子の押し込みによってトシル基が脱離します。

次いで窒素分子を放出するように、窒素原子上に発生したアニオンが根元の炭素に電子を与えることによって、ビニルアニオン中間体へと移行します。

最後に反応の後処理でビニルアニオンがプロトン化して、炭素-炭素二重結合が形成されたオレフィン化合物が得られます。

 

ビニルアニオンを求電子剤で補足すればさらなる変換反応が可能に

 

Shapiro反応におけるビニルアニオン中間体は、水などでクエンチすればプロトン化されたオレフィン化合物が得られますが、アルデヒドやヨウ素分子など適切な求電子剤を作用させることによって、さらに発展性のあるアリルアルコールやヨウ化ビニルなどへ誘導できます。

Shapiro反応の有用性はこの求電子剤とビニルアニオンの反応にあるとも言え、特に立体的に混み合った位置にビニルアニオンを発生できる特性は大変重宝します。

 

Shapiro-fig.3

 

例えば、タキソールやカロテンなどに見られる三つのメチル基で囲まれた四置換オレフィンを含むシクロヘキセンの構築は非常に難しいのですが、前駆体となるシクロヘキサノンからShapiro反応を経由してビニルアニオンを発生させることにより、その後の変換に有用なビニル化合物への誘導を可能にしています。

 

類似の反応としてヒドラゾンをヨウ素で酸化するBarton法を利用すればヨウ化ビニルが得られますが、ブチルリチウムに耐えうる原料の場合は、副反応がおこりづらいShapiro反応の方が高収率で進行する可能性が高いですね。

 

芳香環置換基の立体障害を増やしてシャピロ反応を促進

 

Shapiro反応では、基質によってジアニオンからビニルアニオンの発生が遅い場合があります。

とくに立体障害がそれほど大きくない原料の場合、ビニルアニオンの発生スピードとビニルアニオン自体の安定性のバランスが崩れてしまうことがあります。

温度を上げなければビニルアニオンができないにも関わらず、温度をあげるとビニルアニオンが壊れてしまう、といったケースです。

 

この場合は、ヒドラゾンに置換させたトシル基の代わりに2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基を用いると良いケースがあります。

 

Shapiro-fig.4

 

トシル基と比べてスルホンのオルト位に立体的に嵩高いイソプロピル基を置換させることによって、ジアニオン中間体を不安定化でき、脱離反応を促進します。

しかしながら、準備段階のヒドラゾン形成が遅くなってしまう場合があるので、トシルヒドラジドを使うのか、 2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルヒドラジドを使うのか、原料の立体障害と相談しながら判断するのがいいでしょう。

 

まとめ

 

ケトンを出発原料としてオレフィン化合物へ変換できるShapiro反応は、他の方法では発生させづらいビニルリチウムを求核剤として用いることができる有用反応です。

Bamford-Stevens反応(バンフォード・スティーブンス反応)のひとつとも考えることができますが、反応機構がだいぶ異なっているため、独立の反応として理解したほうがいいかもしれませんね。

 

 

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