とらおの有機化学

有機化学について考えるブログ

Cannizzaro反応はヒドリド移動が可能にするアルデヒドの不均化反応

有機反応において通常の水素原子の移動は、プロトン(H+)としてある化学種から別の官能基へ移ることを指します。

例えば、酸触媒を用いたケトンのケタール形成では、酸素原子上をプロトンがうまく移動することによって、カルボニル基へのアルコールの付加と脱水を可能にしています。

この特徴は、水素原子の電気陰性度がほかの原子に比べて低く、プロトンになりやすい性質を持っているからだと考えることもできます。

 

一方で、うまく条件を設定すると、水素原子がヒドリド(H-)として官能基の間を行き来できることがあります。

今回は、ヒドリド移動をカギとするCannizzaro反応(カニッツァロ反応)について考えていきたいと思います。

 

塩基のチカラで加速するCannizzaro反応のヒドリド移動

 

Cannizzaro反応は塩基性条件で進行するアルデヒドの不均化反応です。

不均化反応とは、1つの均一の原料から、2つあるいはそれ以上の生成物に分離していく反応のことを指します。

本反応では、同じアルデヒド2分子から、アルコールとカルボン酸をそれぞれ1分子ずつ生成する過程が不均化にあたります。

 

Cannizzaro-fig.1

 

ベンズアルデヒドに対して水酸化ナトリウムを作用させると、カルボニル基であるアルデヒドに対して、水酸化物イオンが付加反応を起こして、sp2炭素からsp3炭素に変換されたテトラヘドラル中間体を与えます。

アニオン性のこの中間体が、マイナス電荷を放出するように電子を炭素側に押し込むと、原料であるアルデヒドへ戻る経路がある一方で、中間体の周りにアルデヒドがあると炭素-水素結合を切断するように反応が進行することがあります。

これは、水素原子が炭素との間に共有していたσ結合ごともう一分子のアルデヒドに移動することになり、σ結合を失ったほうはカルボン酸へ、受け取った側はアルコキシドを生成します。

結果をみると、初めにテトラヘドラル中間体を形成したアルデヒドは酸化され、もう一分子のアルデヒドはアルコールに還元されたことになります。

 

Cannizzaro反応の反応機構は塩基の濃度によって2つの経路が想定されているようです。

塩基の濃度が低い場合は上の図のように、テトラヘドラルのモノアニオンから直接ヒドリドが移動します。

一方で塩基濃度が高い場合は、テトラヘドラル中間体のもう一つのOHの水素もプロトンとして塩基に奪われ、ジアニオンになった中間体からヒドリド移動が起こることが知られています。

 

Cannizzaro-fig.2

 

ジアニオンは静電的な反発のため、モノアニオンよりも不安定(=活性)であり、より強いヒドリド供与源となります。

反応の速度式からも塩基濃度が高いほうが加速的に反応が早くなり、効率よくアルデヒドの不均化が進行します。

 

Cannizzaro反応はエノール化しないアルデヒドの不均化

 

Cannizzaro反応には、決定的な弱点があります。

それは、エノール化しうるアルデヒドには適用が困難である点です。

 

アルデヒドの隣の炭素(α炭素)に水素原子が置換している場合、反応条件の塩基性によって、エノレート化が進行します。

生じたエノレートは、反応系内に多数存在する別のアルデヒドに対してアルドール反応を起こしやすく、望みのCannizzaro反応とは別の生成物を優先して与えてしまいます。

 

そのためCannizzaro反応は、芳香族アルデヒドやピバルアルデヒド(t-BuCHO)のような、カルボニルのα位炭素上に水素原子がないものに対して、主に使われる反応になります。

 

交差Cannizzaro反応ではホルムアルデヒドが還元剤に使われる

 

もう一つのCannizzaro反応の弱点として、生成物であるカルボン酸やアルコールの理論最高収率が50%であるという点が挙げられます。

不均化反応ですので、理想的に反応が進行しても原料から1:1の比率でしか、それぞれの生成物が得られません。

 

この弱点を解決する工夫として、交差Cannizzaro反応の利用が考えられます。

これは、2種類のアルデヒドを用いて、それぞれカルボン酸のみ、アルコールのみへの変換を目指すものです。もはや不均化反応ではありませんね。

 

この交差Cannizzaro反応は非常に難易度が高く、実用的なものは多くありません。

ホルムアルデヒドを還元剤側として用いる場合に、原料のアルデヒドをアルコールへ変換できるようですが、それなら別の還元剤でいいのでは?という気になりますね。

 

とらおがCannizzaro反応の有用性に注目している利用法のなかに、分子内Cannizzaro反応があります。

これは、ひとつの分子にふたつのアルデヒドがある化合物に対してCannizzaro反応を行うものです。

それぞれ化学選択的、あるいは位置選択的にカルボン酸とアルコールに変換できれば、両方とも100%の変換を目指せることになり、本反応の有用性が一気に高まると思います。

関連するTischenko反応が同じようなコンセプトで発展しているので、今後の展開に期待したいですね。

 

まとめ

 

Cannizzaro反応はエノール化しないアルデヒドの不均化反応であり、一種類の分子からカルボン酸とアルコールを与える多様性の広がる分子変換です。

なかなか適応できる場面が多くないかもしれませんが、金属ヒドリド還元剤では達成できない還元、酸化例もあります。

特性をよく理解して、「ここでCannizzaro反応か!」と言わせるスマートな活用法を期待していますよ。

 

 

関連記事です。

 

MPV還元も同じように、ヒドリド移動をカギとする還元反応です。アルミニウムが活性化金属に使われることが多いですね。

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MPV還元の逆反応であるOppenauer酸化に関する記事です。Cannizzaro反応のカルボン酸側に関連する酸化反応になりますね。

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アルデヒドの酸化といえばKraus-Pinnic酸化ですね。安定感、信頼性ともに非常に高いです。

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