とらおの有機化学

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ヒドロホウ素化/酸化反応はanti-Markovnikov型で進行する水和反応

炭素‐炭素結合の中でも多重結合であるオレフィンやアセチレンは、有機分子の骨格構造にみられる基本的な官能基です。

多重結合に対して様々な反応試薬が作用することが知られていますが、代表的な分子変換に還元反応と酸化反応があります。

還元反応では一般的に、二重結合化合物であるアルケンからはアルカンが、三重結合化合物であるアセチレンからはオレフィンやアルカンが合成できます。

一方、エポキシ化やジヒドロキシ化、オゾン酸化などの酸化反応では、酸素官能基が導入され、エポキシド、ジオール、ビスカルボニルなど酸化度が上がった化合物が得られてきます。

 

本日取り上げるヒドロホウ素化/酸化反応(hydroboration/oxidation)は、ブラウン(Herbert C. Brown)らによって見出された、酸化度が変わらない水和体を与える変換反応です。

オレフィンに対するヒドロホウ素化/酸化

hydroboration-oxidation-fig1

 

最も一般的なヒドロホウ素化反応は、炭素-炭素二重結合であるオレフィンに対するものです。

 

例えば、一置換オレフィンを有する原料に対してボランやジシアミルボランなどの水素-ホウ素結合を有するボランを作用させると、π結合が炭素-水素結合と炭素-ホウ素結合に変換されます。

 

この反応ではまず、空のp軌道を有するボランがオレフィンに作用することにより、炭素-炭素二重結合が活性化されます。

試薬であるボランのホウ素-水素結合に注目すると、電気陰性度が水素原子のほうがホウ素原子よりも大きいため(H: 2.2, B: 2.0)、水素原子側に電子が偏っていることになります。

仮にオレフィンのπ電子がホウ素原子の空のp軌道に電子を与えたとすると、置換基の多い炭素上にプラス電荷が発生したほうが安定となるため、ホウ素原子よりもマイナス電化を帯びている水素原子は、多置換炭素上に作用するように付加反応を起こします。

結果として、オレフィンの多置換炭素側に水素原子が、少置換炭素側にホウ素原子が結合するほうが有利となります

実際にはカルボカチオンの生成は起こらないようで、ほぼ同時に水素とホウ素がオレフィンに対してsyn付加することが知られています。しかしながら、よりプラスになりやすい炭素に水素が付加する傾向を理解するのに、上記の考え方は役立ちますね。

 

過酸化物による炭素-ホウ素結合の酸化は立体保持で進行

一段階目で得られる有機ホウ素化合物は、さまざまな分子変換反応に利用可能な将来性の高い化合物です。

ヒドロホウ素化の後に最も行われているのが、アルコールを最終生成物として与える酸化反応です。

 

 

hydroboration-oxidation-fig2

 

ヒドロホウ素化で得られたアルキルホウ素中間体に対して、塩基性条件で過酸化水素を作用させると、炭素-ホウ素結合が炭素-酸素結合になったアルコールが生成物として得られてきます。

 

この変換ではまず、塩基によって活性化された過酸化水素がホウ素原子の空のp軌道に対して付加反応を起こし、アニオン性のアート錯体を形成します。

 

その後、アート錯体のホウ素原子からのマイナス電荷の放出と、過酸化水素の弱い酸素-酸素結合の切断を駆動力として、炭素-ホウ素間のσ結合が丸ごと過酸化水素の片方の酸素に移動し、酸素-酸素結合の開裂を伴いながら水酸化物イオンを放出します。

 

得られるホウ酸エステルは反応系内、あるいは後処理の段階で加水分解され、最終生成物であるアルコールを与えます。

 

ヒドロホウ素化/酸化反応で得られる水和体はanti-Markovnikov付加生成物

 

hydroboration-oxidation-fig3

 

一般に、オレフィンを強酸性条件下で水とともに処理すると、水分子がオレフィンに付加した水和体が得られることがあります。

この場合、中間体のカルボカチオンの安定性から多置換アルコールを優先して与えるMarkovnikov則(マルコフニコフ則)に従うのが一般的です。

 

一方で、ヒドロホウ素化と続く酸化反応で得られるアルコールは、少置換炭素側に新たに水酸基が生成する傾向があるため、この二段階のアルコール生成は「anti-Markovnikov型の水和反応」と呼ばれています。

 

まるで正反対の原理で反応が進んでいるように聞こえますが、どちらの過程でも、安定なカルボカチオンの発生と、それに対するマイナス電荷を持つ原子の付加であることは重要なポイントですね。

 

ヒドロホウ素化におけるもう一つの大事な特徴は、ボランの付加反応が炭素-炭素二重結合に対して同じ面からボランが作用するsyn付加で進行することです。

ヒドロホウ素化後に酸化反応を行う場合は、水素と酸素原子がオレフィンの同じ面に生成できることを意味し、生成物であるアルコールの位置、立体選択性を予測できる非常に有効な方法になります。

 

まとめ

 

オレフィンは多くの化合物に潜在する基盤官能基であり、ヒドロホウ素化/酸化反応によって、より有効なアルコールを生成物に設置することができます。

ヒドロホウ素化に用いるボラン化合物の種類を変えることによって、立体的な大きさを武器に、複数のオレフィンを区別して反応を行うこともできます。

 

選択的なヒドロホウ素化は、本日取り上げたアルコールの導入だけでなく、鈴木カップリングに代表される炭素-炭素結合にも応用でき、大きな発展性がある反応です。

今後は、パラジウムだけでなくニッケルなどの触媒化学が炭素-ホウ素結合の化学を発展させ続けていくことが期待されます。

有機ホウ素の化学から目が離せませんね。

 

 

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