とらおの有機化学

有機化学について考えるブログ

Evans-Tishchenko反応は分子内ヒドリド移動を利用したケトンの立体選択的還元

天然からは、長い炭素鎖上に一つ置きに2級水酸基が多数置換した天然物が単離されることがあります。 ポリケチドと呼ばれるこれらの有機分子は、その生合成においてアセチルCoAという生合成単位が、次々と連結反応を起こして形成されています。 連結直後はケ…

Tishchenko反応はエステルを合成可能なアルデヒドの不均化反応

分子の二量化反応は、一種類の化合物2分子が合体することによって、1つの新しい分子を形成する反応です。 シクロベンタジエンは有機合成でよく使われる合成素子ですが、単量体はそこまで安定ではなく、Diels-Alder反応が進行したダイマー(二量体)として…

Cannizzaro反応はヒドリド移動が可能にするアルデヒドの不均化反応

有機反応において通常の水素原子の移動は、プロトン(H+)としてある化学種から別の官能基へ移ることを指します。 例えば、酸触媒を用いたケトンのケタール形成では、酸素原子上をプロトンがうまく移動することによって、カルボニル基へのアルコールの付加と…

Oppenauer酸化はアセトンを酸化剤に用いる2級アルコールの酸化反応

有機合成において、アルコールの酸化は非常に発展した分野であり、数多くの有用な酸化法が開発されてきました。 それこそ覚えきれないほどの酸化剤が報告されているわけですが、酸化したい原料の環境に応じて最適な酸化方法は異なることが一般的です。 立体…

Meerwein-Ponndorf-Verley還元はイソプロパノールをヒドリド源とするカルボニルの還元反応

カルボニル化合物の還元反応には、水素化ホウ素化合物や水素化アルミニウム化合物に代表される金属ヒドリド錯体を使用するのが一般的です。 水素化ホウ素ナトリウムを初めとする、これら金属ヒドリド還元剤は取り扱い安さや試薬の当量コントロールの容易さな…

ヒドロホウ素化/酸化反応はanti-Markovnikov型で進行する水和反応

炭素‐炭素結合の中でも多重結合であるオレフィンやアセチレンは、有機分子の骨格構造にみられる基本的な官能基です。 多重結合に対して様々な反応試薬が作用することが知られていますが、代表的な分子変換に還元反応と酸化反応があります。 還元反応では一般…

水素化トリエチルホウ素リチウムは強力な求核力を有するSuperなHydride源

炭素の酸化度を低くする反応は還元反応と呼ばれますが、一般的には水素化を伴うことが多いですね。 アルデヒドやケトンなどのカルボニル化合物が還元されると、C=O二重結合の炭素に水素がついていくわけです。 カルボニル基に限らず、酸素や窒素などのヘテロ…

水素化トリsec-ブチルホウ素塩は大きな立体を武器とした還元剤

カルボニル化合物の中でもケトンの還元反応では、ケトン周りの環境によってヒドリドが接近してくる面により生成物が異なることがあります。 例えば、コンホメーションが制限されているシクロヘキサノンなどの還元では、生成物であるアルコールがアキシャル配…

トリエチルボランは低温でも活躍できるラジカル開始剤

従来、イオン反応に比べて発展が遅れていたラジカル反応ですが、近年多くの化学者の努力により、飛躍的に発達してきました。 不斉触媒を利用した分子変換も開発されるようになり、ますますその重要性を増しているラジカル反応ですが、最近の目覚ましい展開を…

AIBN系ラジカル開始剤で快適なラジカル生活

カチオン反応やアニオン反応などのイオン反応は、多くの有機反応の中に組み込まれており、多くの化学反応を実現しています。 一方で、不対電子を有する化学種であるラジカルは電気的に中性の場合が多く、イオン反応とは異なる様式の化学変換を達成してきまし…

Barton-McCombie脱酸素化は炭素ラジカルを利用した還元反応

Barton-McCombie deoxygenation / バートン-マクコンビー脱酸素化 基本的な官能基のひとつであるアルコール(水酸基)は、極性官能基として非常に重要であり、多くの有機反応や分子認識の足掛かりとなります。 しかしながらワガママな化学者は、時々このアル…

PDC酸化はほぼ中性条件で行えるクロム酸酸化

PDC酸化 多様な官能基を有する機能性有機分子の合成において、できるだけマイルドな条件で進行する反応は、官能基許容性の高さに直結し価値が高い反応となります。 アルコールを酸化する方法は数多く存在しますが、反応操作の用意さや試薬の値段・安定性など…

PCC酸化は酸性条件で進行するアルコールのクロム酸酸化

PCC酸化 重金属であるクロムを使った酸化反応は、再現性の高さや試薬の安さなど様々なメリットがあるため、長い間に渡り、多くのアルコールからカルボニル化合物への変換反応に使われ続けてきました。 二クロム酸を活性種とするJones酸化はその代表例ですが…

Jones酸化は酸化クロムを用いたオーソドックスな酸化法

近年では多くの化学者の努力により、多様な官能基変換を比較的簡単に達成できるようになってきました。 基礎的な化学反応のひとつであるアルコールの酸化は、アルデヒドやケトン、カルボン酸といったカルボニル化合物を得るために重要な反応です。 最近では…

オゾン分解は炭素‐炭素二重結合を切断する酸化開裂反応

炭素‐炭素二重結合は、σ結合とπ結合によって炭素原子が連結した状態であり、炭素‐炭素単結合よりも結合長が短く、強い結合と言えます。 仮にこの二重結合を切断しようとすると、先述のようにσ結合とπ結合の二つの結合を切らなければならず、大きなエネルギー…

水素化ジイソブチルアルミニウムは部分還元を可能にする汎用還元試薬

アート錯体であるLiAlH4やNaBH4は、アルデヒドやケトンを中心とするカルボニル化合物の還元反応に多用される有用な還元剤です。 一方で、二段階の還元を受けうるカルボン酸誘導体の場合、アート錯体型試薬を用いた還元では途中の段階で反応を制御することは…

ボランはカルボン酸を選択的に還元できる特殊な還元剤

カルボニル化合物の還元反応は、合成有機化学の中でも基礎的な反応のひとつです。 一般的に還元剤に対するカルボニル化合物の反応性は、酸塩化物>アルデヒド>ケトン>エステル>アミド>カルボン酸の順番で低くなっていきます。 つまり、ケトン存在下でア…

水素化アルミニウムリチウムはカルボン酸も還元できる強力な還元剤

数ある還元剤の中でも、ホウ素原子もしくはアルミニウム原子の水素化イオン性無機塩であるアート錯体は、比較的安定な試薬として、カルボニル化合物の代表的還元剤です。 中心元素の種類や置換基の種類、大きさによって反応性が異なり、各カルボニル化合物に…

Hofmann転位は1級アミドから減炭を伴うアミノ基合成

医薬品や有機分子材料などにみられる官能基の中でもアミノ基は、三つの共有結合と一つの非共有電子対を有する窒素原子の特性を発揮できる基礎的官能基のひとつです。 結合角度や電子的性質、窒素上での速い立体反転を起こすなど、炭素や酸素原子とは特徴が大…

アゾカップリングは染料を合成する工業的化学反応

色彩は、人類だけでなく多くの生物を魅了する視覚的な刺激であり、特別な色を持つことは、人類にとって権威と繁栄の象徴でもありました。 天然から得られる色に満足できない人類の欲望を満たすため、石炭や石油などの化石燃料から得られる化合物を原料として…

semipinacol転位はpinacol転位とは似て非なるもの

pinacol転位は、1,2-ジオールを出発原料とする官能基の1,2-転位であり、二つの水酸基からカルボニル化合物であるケトンへと誘導できる分子変換反応です。 通常のpinacol転位では、より安定なカチオンを形成するべく、最初のカルボカチオン発生は多置換炭素上…

Wagner-Meerwein転位は安定カルボカチオンの形成を目指す骨格転位

数ある転位反応の中でも炭素−炭素結合の組み替えを含む有機反応は、付加反応や遷移金属を用いたクロスカップリングなどの直接的な結合形成では成し得ない分子骨格の構築に成功することがあります。 特に、ステロイドの生合成経路にも見られるように、カルボ…

pinacol転位は1,2-ジオールから始まる炭素骨格の再構築

炭素を中心とする有機化学では、既存の炭素-炭素結合を壊したり、くっつけたりして自在に炭素骨格を変形できるのが理想ですが、簡単ではありません。 遷移金属触媒を中心とする炭素−炭素結合の切断を伴う分子変換反応が、将来この分野の発展に大きく貢献する…

Robinson環化は6員環エノンを合成する名盤反応

数ある天然有機分子のなかでも、環状炭素骨格が連なった縮環構造を有するステロイド類は有名であり、コレステロールなどは生活用語にもなっているお馴染みの化合物です。 ステロイドの主骨格にみられる6員環炭素骨格シクロヘキサンは、テルペノイドをはじめ…

Cope脱離はアミンオキシドを経由するオレフィン合成法

有機合成における基本反応のひとつである脱離反応では、多くの場合炭素‐炭素二重結合化合物であるオレフィンを生成物として与えます。 一般に、水素原子と脱離基が原料から乖離しオレフィンへと誘導されるのですが、化合物の性質により、さまざまな経路を経…

Hofmann脱離は少置換オレフィンを優先する脱離反応

炭素原子を中心とした有機化学では、脱離反応の進行とともに炭素−炭素二重結合であるオレフィンが生成することがよくあります。 β脱離と呼ばれる反応では、脱離基が付いた炭素の隣の炭素上(β位)にある水素原子がプロトンとして原料から脱離基とともに奪わ…

Eschenmoserメチレン化反応でカルボニルのα位を増炭

信頼性の高い反応の組み合わせにより、決まった構造・官能基を構築できる一連の反応スキームは、欲しいものだけをつくる化学において、大変重宝されます。 例えばテルペノイドやステロイド関連化合物の合成研究で多用されるHajos-Parrishケトンは、β−ジケト…

Mannich反応はアミン、ホルムアルデヒド、炭素求核剤が織りなす三成分連結反応

一つのフラスコ内で多数の原料が縮合する反応は、少ない反応数で多様な分子構造の創生を可能にする魅力的な合成化学です。 Ugi反応に代表される多成分連結反応の開発は極めて難易度が高く、また実用的な生成物を与えるものはさらに限定されます。 今回取り上…

Morita-Baylis-Hillman反応はアルデヒドと不飽和カルボニルのカップリング反応

カルボニル化合物は、数ある置換基の中でも最も基本的な官能基のひとつであり、様々な化学反応に利用されています。 もし、二つのカルボニル化合物を同じフラスコ内で、区別しながら連結することができれば、多数の有用な官能基を有する生成物が一挙に得られ…

Birch還元はベンゼン環をシクロヘキサジエンに変える特別な反応

芳香族化合物は、医薬品や有機EL、化学工業製品など、多様な機能分子に含まれており、私たちの生活になくてはならない存在になっています。 特に炭素のみで構成され、最も基本的な芳香族化合物であるベンゼン環は、構造解明に至る歴史物語や構造的な美しさか…