とらおの有機化学

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アゾカップリングは染料を合成する工業的化学反応

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色彩は、人類だけでなく多くの生物を魅了する視覚的な刺激であり、特別な色を持つことは、人類にとって権威と繁栄の象徴でもありました。

天然から得られる色に満足できない人類の欲望を満たすため、石炭や石油などの化石燃料から得られる化合物を原料として、多くの合成染料が開発され続けてきました。

 

有機化学の観点から見れば、合成染料はいくつかのグループに分けられますが、一大勢力として有名なものにアゾ染料(azo dyes)が挙げられます。

このグループは、2つのベンゼン環を二重結合を有する2つの窒素原子が繋いでいる分子構造を有しており、アニリンと求核的な芳香環から人工合成されるのが一般的です。

 

今回は、アゾ化合物を作る定番反応であるアゾカップリングについて考えていきたいと思います。

 

アゾカップリングはジアゾニウム化合物と求核的な芳香族の求電子置換反応

 

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アゾカップリング(あるいはジアゾカップリング)は、アニリンから誘導できるジアゾニウム塩とフェノールやアニリンなどの電子豊富な芳香族化合物の連結反応です。

 

反応はまず、求電子剤として用いたいアニリンを亜硝酸ナトリウムとともに強酸である塩酸で処理してジアゾニウム塩を得ます。

酸性条件下で亜硝酸ナトリウムは亜硝酸に変換されたあと、さらに活性化を受けてニトロソニウムイオン等価体を発生します。

このニトロソニウムイオンに対してアニリンの窒素原子が反応し、N‐ニトロソを形成後、酸性条件による活性化を受けながら脱水を起こし、塩化物イオンをカウンターアニオンに持つベンゼンジアゾニウム塩を生じます。

 

生じたジアゾニウム塩に対してアニリンやフェノールなどの電子豊富な芳香族化合物を作用させると、窒素原子あるいは酸素原子のパラ位の炭素がジアゾニウム塩の末端窒素原子に対して反応し、カチオン性中間体であるσ錯体を与えます。

 

Meisenheimer錯体も有名なσ錯体のひとつですね。

 

このσ錯体の立体障害が最も小さくなるのが、窒素原子や酸素原子のパラ位での形成であること、またそれほどよい求電子剤ではないジアゾニウム塩と反応するために、最も大きな負電荷を有するパラ位で反応すること、などの理由でパラ位選択的なカップリング反応が進行するようですね。

 

最後に、σ錯体中間体から芳香族性を取り戻すため、ジアゾニウム塩のカウンターアニオンである塩化物イオンがアゾ基が置換した炭素からプロトンを引き抜き、塩酸の放出とともに芳香環が再生されたアゾ化合物を生成物として与えます。

得られるアゾ化合物は通常、熱力学的により安定なアンチ異性体(トランス)が得られるようですね。

 

カップリング相手によって最適条件を選択せよ

 

アゾカップリングの反応条件は、カップリング相手をアニリンにするかフェノールにするかで使い分ける必要があります。

 

アニリンの場合、強い酸性条件ではアニリン自体のプロトン化により求核力が低下するため好ましくなく、弱酸性から中性条件がよく用いられるようです。

 

一方でフェノールを反応に用いる場合、アニリンに比べて電子供与性が低い性質を補うため、フェノールをアニオン性のフェノキシドに変換出来たほうが、反応を加速させることができます。

そのため、弱塩基性条件で反応が行われる場合が多いですが、あまりに強い塩基性条件ではジアゾニウム塩が分解してしまうため、こちらも程よく条件を調整する必要があります。

 

電子豊富な求核性芳香族の特性を、よく理解してから反応に臨めば安心ですね。

 

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注意しなければならないことの一つに、低級のアニリンをカップリングに用いると窒素原子上でジアゾニウム塩と反応したN-アゾ体であるトリアゼン(triazene)が得られる点です。

新しく形成する結合(N-N結合)の強さが、C-アゾ体とも呼べるアゾカップリング生成物(C-N結合形成)と比べても、それほど大きな差がないため進行すると考えられます。

ただ、トリアゼン化合物を酸性条件下で加熱処理をするとC-アゾ体であるアゾカップリング生成物に異性化することも覚えておきたい点ですね。

 

まとめ

 

現在、染料の6割を占めるとも言われているアゾ染料。

アゾ基と二つの芳香環に大きく広がった長い共役が吸収波長を広げ、可視光の吸収により励起したπ電子の動きの多様性が黄色から赤色を中心とした色どりを可能にしています。

 

生物を魅了する色の正体のひとつが有機分子であることは、当たり前なのかもしれませんが個人的には不思議に感じられます。

 

 

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芳香族アゾ化合物を使った最も有名な反応はサンドマイヤー反応でしょう。

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 ストレッカー反応も工業レベルで使用されている分子連結反応ですね。

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