とらおの有機化学

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向山酸化はスルフィンイミドイルクロリドが仲介するアルコールやケトンの酸化法

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有機合成で使用される酸化反応は本当にたくさんあり、それこそ覚えられないぐらいの反応が開発されています。

ところが多くの酸化反応は、アルコールならアルコールだけ、ケトンならケトンだけ酸化する、といった専門領域が決まっていることがほとんどです。

今回は、多様な分子変換を可能にする貴重な酸化法のひとつであるMukaiyama oxidation(向山酸化)を取り上げます。

 

向山法を利用したアルコールの酸化

2000年ごろ、向山先生のグループはN-tert-ブチルフェニルスルフィンイミドイルクロリドを利用したアルコールの酸化法を報告しました。

Mukaiyama oxidation-fig.1

試薬の名前が長いのでこの記事では試薬Aとしますが、試薬Aは前駆体のスルフェンアミドBN-クロロスクシンイミド(NCS)などで酸化することにより得られます。

Mukaiyama oxidation-fig.2

試薬AをDBUなどの塩基とともにアルコールに作用させると、Aのスルフィンイミドイル構造にアルコールが付加反応を起こして、塩化物イオンが抜けた中間体を形成します。なんだかVilsmeier試薬に似ていますね。

この中間体は硫黄と窒素のイリドのような状態であり、窒素原子上のアニオンが原料水酸基の根元の炭素から脱プロトン化を進行させることによって酸化反応が進行し、生成物であるカルボニル化合物を与えます。

Mukaiyama oxidation-fig.3

反応機構の類似性から、Swern酸化と比べられることがあるようですが、それもそのはずで、向山先生はSwern酸化の反応機構をヒントに試薬Aを開発されたようです。

 

試薬AはすでにSwern酸化の活性種と類似の状態である一方で、室温でも安定なため、Aを使った酸化反応も室温で行える利点があります。

また、反応の初めから終わりまで、常に塩基性条件下で反応がスムーズに進行する特徴は、酸に不安定な化合物にも使うことができ、かなりポイントが高いです。

 

生成物のカルボニル化合物が塩基に不安定な場合は、DBUの代わりに酸化亜鉛(ZnO)などのより弱い固体塩基を用いるといい場合があるみたいですね。

NCSを再酸化剤とした触媒的向山酸化反応

向山酸化のすごいところは、アルコールの酸化とともに副生する試薬カスとでもいえるBを、反応系内で再酸化することによって触媒的な酸化反応を実現できる点です。

特によく使われるNCSは、アルコールに直接作用することが少なく、試薬Bのみを選択的にAヘ酸化するため、基質の適用範囲を広げてくれていますね。

Mukaiyama oxidation-fig.4

NCSはCl+を与える試薬で、硫黄原子であるスルフィドが最も早くCl+と反応するのを利用して、試薬Bの選択的な活性化を実現しています。試薬Aができてはじめてアルコールが活性化され、酸化されていきます。

 

エノラートに対して向山酸化を行えばエノンが合成できる

とらお的に向山酸化の最も有効な使い方が、ケトンからα,β-不飽和ケトンであるエノンの合成です。

Mukaiyama oxidation-fig.5

ケトンから発生させたエノラートに対して試薬Aを作用させると、エノラートの炭素原子がスルフィンイミドイルクロリドに求核攻撃を起こし、C-S結合をもった中間体を与えます。

アルコールの酸化の時と同様に、硫黄と窒素原子はイリドの状態になっており、カルボニルからみてβ位の炭素から脱プロトン化が進行すれば、エノンが得られるわけです。

 

三枝・伊藤酸化でも同じエノンが得られますが、パラジウムと親和性の高い硫黄などを含む原料では、三枝・伊藤酸化では収率の大幅な低下がみられがちです。

また、セレニルクロリドを使ったエノン合成では、毒性の高くかつ臭いセレン試薬を使いますし、その後に過酸化水素水などでセレノキシドへ酸化する必要もあります。

 

比較的毒性の低い有機分子のみで構成された試薬Aは、うまくいけばエノラートから一段階でパッとエノンが得られるため、大変重宝する反応ですね。

 

まとめ

スルフィンイミドイルクロリド(試薬A)を活用したアルコール、およびケトンの向山酸化は、その有用性により、かつてとらおに恩恵を与えてくれた思い出の反応です。

試薬Aが湿気に弱いなのが注意点なので、実験技術を磨いて(乾燥した日に)サッと仕込みたい反応ですね。

 

関連記事です。

ライバルの三枝・伊藤酸化です。この反応にも、とらおはずいぶんお世話になりました。

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IBXはうまく使えば色々な酸化を可能にしてくれます。爆発性にビビッてあんまり使ったことないですが。。

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 向山酸化と反応機構が似ていると噂のDMSO酸化です。代表的なSwern酸化に関する記事ですね。

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