とらおの有機化学

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Eschenmoserメチレン化反応でカルボニルのα位を増炭

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信頼性の高い反応の組み合わせにより、決まった構造・官能基を構築できる一連の反応スキームは、欲しいものだけをつくる化学において、大変重宝されます。

例えばテルペノイドやステロイド関連化合物の合成研究で多用されるHajos-Parrishケトンは、β−ジケトンとメチルビニルケトンを原料にし、Michael付加反応、分子内不斉アルドール反応、脱水反応の3つの反応を組み合わせて合成されます。光学純度の高い6,5縮環エノンが得られる重要な反応プロセスです。

Michael付加と分子内アルドール、脱水の組み合わせは、Robinson環化(annulation)という有名な反応でもありますね。

 

Mannich反応とアミンの脱離反応が上手く組み合わさったEschenmoserメチレン化反応(エッシェンモーサー反応)は、ケトンに対する便利な一炭素増炭反応です。

 

Mannich生成物からHofmann脱離もしくはCope脱離で末端エノン形成

 

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Eschenmoserメチレン化は、まずイミニウム塩であるdimethyl(methylene)ammonium iodideをエノレートに作用させてMannich反応を行います。

この試薬はEschenmoser's saltと呼ばれ、試薬会社からも比較的安価に購入できる安定な試薬です。

 

リチウムジイソプロピルアミド(LDA)やLiHMDSなどの嵩高い強塩基によって、メチレン化させたいケトンのα位炭素を脱プロトン化してエノレートを調製します。

次いで、Eschenmoser's saltを反応系内に加えることにより、Mannich反応を進行させてβ−ジメチルアミノメチル基を導入します。

 

エキソメチレンへ変換すべく、Mannich生成物から導入した官能基の一部であるジメチルアミノ基を脱離させるのですが、アミノ基を活性化するのにアルキル化剤で4級アンモニウム塩にする方法と、過酸化物を用いてアミンオキシドに酸化する方法に大別されます。

ヨードメタンで4級アンモニウム塩にした後に、塩基処理や加熱により脱離反応を行う経路はHofmann脱離であり、トリメチルアミンの放出を伴いながら望みの末端メチレン化が達成できます。

一方、m-CPBAなどの過酸でMannich塩基を処理するとジメチルアミノ基が酸化され、続いて生成物であるN-オキシドを加熱すれば、syn脱離によりメチレン化を促すCope脱離が進行します。

 

反応条件や基質によっては、Eschenmoser試薬で処理後、そのままジメチルアミノ基の脱離まで発展させることもできるようですね。

 

使い勝手の良い末端不飽和ケトン

 

本反応の良いところは、発展性のある末端二重結合をカルボニル基のα位に導入できることです。

 

エノンをはじめとするα,β-不飽和カルボニル化合物は、Michael反応において良質なMichael acceptorであるため、生物活性を示す天然物や生体機能を調整する分子ツールにて、標的タンパク質などから1,4-付加攻撃を受けやすい活性部位として多く含まれます。

この活性官能基を比較的温和な条件で作れる本反応は、それだけで貴重な反応と言えます。

 

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加えて、生成物を1,4-還元すればα-メチルケトンが、塩基性条件で過酸化水素などを作用させればエポキシドが導入できます。

1,4-還元後に中間体を適切に補足すれば、他の方法では合成しづらい四置換オレフィンを含むエノールシリルエーテルやビニルトリフレートを単離することもでき、その応用性は大きく広がります。

単純に、1,2-還元や付加反応を行っても対応するアリルアルコールが得られるなど、多段階合成におけるハブになるこの機能性官能基合成法は、ぜひ手持ちのカードとして覚えておきたいところですね。

 

まとめ

Eschenmoserメチレン化は、信頼性と応用性に優れた末端メチレン構築法です。

多くの有機反応が開発され尽くされた感のある現在においても、シンプルで信頼性の高い反応を連続的に活用する合成経路の開発は、コロンブスの卵になり得る変換反応の思考法ですね。

真似しながら学び、新しい付加価値を与えた有機反応を開発して、自分の名前を科学史に刻んでしまいましょう。

 

 

関連記事です。

 

こちらはHofmann脱離に関する紹介記事です。Eschenmoserメチレン化でも多様される優れた反応です。

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 Cope脱離も本反応に使われますね。Hofmann脱離とは相補的な反応のひとつです。

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 もうひとつの構成要素であるMannich反応に関する記事です。三成分が連結できる魅力的な反応です。

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