とらおの有機化学

有機化学について考えるブログ

向山酸化はスルフィンイミドイルクロリドが仲介するアルコールやケトンの酸化法

有機合成で使用される酸化反応は本当にたくさんあり、それこそ覚えられないぐらいの反応が開発されています。 ところが多くの酸化反応は、アルコールならアルコールだけ、ケトンならケトンだけ酸化する、といった専門領域が決まっていることがほとんどです。…

三枝・伊藤酸化はパラジウムの酸化力を利用したエノン合成法

飽和炭化水素であるアルカンは強いC-C単結合で構成された分子であり、生物界をはじめ、様々な有機分子の土台として利用されています。 近年、C-H結合の直接官能基化が爆発的に発展していますが、それでもやはり化学反応性に乏しく、分子を修飾するのには困難…

Davis酸化はオキサジリジンを利用した酸素原子導入法

カルボニル化合物から発生できるエノラートは、有機化学の大テーマであるC-C結合の形成で活躍してきました。 自然界に目を向けても、アセチルCoAに代表されるカルボニル化合物が、エノラートを駆使した生合成経路で活用されています。 アルドール反応やClais…

Rubottom酸化はカルボニルのα位に酸素原子を導入する酸化法

炭素-炭素二重結合であるオレフィンには、電子豊富なもの、普通のもの、電子不足のものといった電子的性質が異なるオレフィンがあります。 例えば、α,β-不飽和ケトンなど電子吸引性官能基が直結したオレフィンでは、隣接基の影響で二重結合を形成しているπ電…

Overman転位は[3,3]シグマトロピー転位を利用した窒素原子導入法

おしゃれな有機合成を目指すとらおにとって、離れたところにある立体化学情報を、別の位置の立体化学を作るのに転写するのは、魅力的な分子変換です。 加えて、元素の種類も思いのまま入れ替えられたら、さらにおしゃれ度がアップするわけです。 シグマトロ…

Luche還元は水素化ホウ素ナトリウム+塩化セリウムが可能にするエノンの1,2-還元

ランタノイドは原子番号57のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までの原子の総称です。 ランタノイドの電子配置は、原子番号が増えるにつれて4f軌道に電子が入っていくことになりますが、最外殻電子である5d軌道と6s軌道の電子数が変わらないことが多…

Sandmeyer反応はアニリンを起点とする官能基導入法

2017/11/28投稿 2018/3/1更新 芳香族求電子置換反応は、置換基の少ない芳香環を修飾して多官能基化する有用な手法です。 いろいろな置換基を利用した求電子置換反応が開発されていますが、電子供与性基である窒素が置換したアニリンは、求電子置換反応の代表…

Simmons-Smith反応はシクロプロパン合成の主力反応

環状炭素骨格の中でも最小単位であるシクロプロパンは、3つの炭素が三角形型に連結したものであり、バナナ結合とも呼ばれる折れ曲がったσ結合で三角形を作っています。 歪みのある分子骨格なので一見不安定に見えますが、炭素3つのシクロプロパン、酸素原…

Swern酸化は二段階活性化が魅力のオススメ酸化法

2017/11/18投稿 2018/2/27更新 アルコールの酸化反応は、有機合成を進めていく上で欠かせない分子変換のひとつです。 現在では非常に優れた酸化反応が開発されていますが、長い間化学者に使われ続けてきた酸化反応は独自の強みを持った優位性がありますね。 …

Staudinger反応はアジドの還元を起点としたイミノホスホランの化学

アジド基は窒素原子が3つ連なった化学構造を持っていて、この3つの窒素原子のうち、真ん中の窒素がプラス、両端の窒素原子がマイナスに分極した官能基です。 高い求核力を有するアジドの性質のため、様々な機能性分子へのアジド基導入が簡単な一方で、特定…

Narasaka-Prasad還元は1,3-シンジオールを与えるジアステレオ選択的な還元反応

有機合成において、1つの原料から2つ以上の分子が創製できれば、機能性分子の性質改変や構造活性相関研究に役立ち、物質供給の多様性を広げてくれます。 たくさんの水酸基を有する天然有機物であるポリオール化合物の中には、ポリケチドのように生合成に由…

Saksena-Evans還元は1,3-アンチジオールを与えるジアステレオ選択的還元反応

隣接官能基を利用した有機反応は、原料に内在する官能基を足掛かりにして他の部分の官能基を狙い通りに反応させる、おしゃれな分子変換です。 最近では、アミドなどのカルボニル化合物を配向性官能基として利用したC-H結合の官能基化が発展し、もはや何でも…

Vilsmeier試薬はホルミル化・アシル化・塩素化に使える脱水剤

カルボニル化合物の中でもアミドは、最も反応性が低い官能基であると認識されがちな官能基です。 確かにカルボニル化合物に関する多くの有機反応が、求核付加、エノレート形成、加水分解に分類できるため、カルボニル炭素のプラスの分極が重要となります。 …

Baeyer-Villiger酸化はケトンをエステルに酸化する転位反応

カルボニル化合物のひとつであるケトンは、多くの機能性有機分子にみられる基礎的な官能基です。 Swern酸化やDess-Martin酸化などにより、2級アルコールから比較的簡単に合成することができますね。 通常のアルコール酸化剤ではそれ以上酸化されないため、…

ジチアンはアルデヒドを求核剤に極性転換させるカルボニル保護体

硫黄は周期表の第3周期の元素であり、炭素や酸素、窒素原子など第2周期とは異なる化学的性質を示します。 同じ第16族元素である酸素とよく比較されますが、とらおの理解を大雑把に言えば、価電子の数は一緒だが、化学反応に関わる軌道の大きさ(酸素:2s…

シアノヒドリンは増炭反応や極性転換に使える有用中間体

シアノヒドリンは、カルボニル基にシアン化物イオンが付加した化学種であり、アルデヒドやケトンなど反応性の高いカルボニル基の保護基として用いられる官能基ですね。 「梅干しの種を食べると死んじゃうよ!」って、子供のころ母親に脅された記憶があります…

Eschenmoser-Claisen転位は中性条件で進行する[3,3]-シグマトロピー転位

アリルアルコールから2炭素以上の炭素鎖伸長を実現できるClaisen転位は、新しく生成する炭素-炭素結合においてアリルアルコールの立体化学転写が特異的に進行するため、多くの有機合成に取り入れられてきました。 本当に素晴らしい分子変換反応では、より使…

Shapiro反応はケトンからビニル求核剤へ変換できる有用反応

有機化学に多く見られる官能基のひとつとして、カルボニル基であるケトンが挙げられます。 C=O二重結合を有するケトンは、炭素原子がδ+、酸素原子がδーとなっているため、カルボニル炭素は求核攻撃を受けやすい性質がありますね。 ケトンを利用した有機合成…

Ireland-Claisen転位はケテンシリルアセタールが活躍する[3,3]-シグマトロピー転位反応

立体選択的な炭素-炭素結合の形成は、欲しいものだけを作ることが要求される現代の有機化学において、とても重要な課題です。 とくに、2つ以上の立体化学が新しく形成される場合は、そのジアステレオ選択性の制御が最高難度に達し、とらおをはじめとして多…

Johnson-Claisen転位はオルトエステルが可能にする[3,3]-シグマトロピー転位

シグマトロピー転位は、二重結合や三重結合、あるいは芳香環など、π電子を含む多重結合官能基と隣接する単結合が電子の流れによって切れたり繋がったりする反応です。 シグマトロピー転位だけで長編ブログが書けてしまいそうなので、またそのうち取り上げた…

Stetter反応はアルデヒドとα,β-不飽和カルボニルとの連結を可能にする極性転換反応

シアノヒドリンやジチアンから発生させたカルボアニオンは、求電子剤との反応後に脱保護することによってケトンを与えるため、アシルアニオン等価体と考えることができます。 アシルアニオンは、アルデヒドの水素原子が脱プロトン化されたカルボアニオンと見…

Benzoin縮合は極性転換を経由した芳香族アルデヒドの二量化反応

有機化学において極性転換(umpolung)を用いた反応戦略は、これまでの常識をひっくり返すインパクトを提供しうるものであり、化学者のこころをワクワクさせます。 極性転換は、ある官能基の通常知られている化学的な振る舞いとは真逆の性質を与えること、と…

Shiinaマクロラクトン化はMNBAを使った現在最高のラクトン合成法

化学反応では一般的に、他の分子との連結反応である分子間カップリングを行いたいときは、反応濃度がなるべく濃いほうが反応速度が速くなります。 これは溶媒の量が少ない方が、フラスコ内で相手方の分子と出会う確率(衝突する確率)が高くなるためと理解で…

Yamaguchiマクロラクトン化はラクトン合成の名盤反応

有機分子の中には、タンパク質などの生体内高分子に対して作用する生物活性分子が知られています。 標的タンパク質に相互作用する場合、水素結合や静電相互作用、疎水性相互作用など、特定の官能基がたんぱく質との親和性に重要な役割を果たしています。 し…

Corey-Nicolaouマクロラクトン化はピリジルチオエステルを利用したラクトン化

マクロライド系抗生物質は四大抗生物質の一つであり、医薬品において一大グループとなっています。 大きな環状ラクトンを特徴とするこれら一連の化合物が、人類の健康に果たしてきた貢献度は計り知れませんね。 ポリケチド合成酵素(PKS)によるマクロリド(…

Criegee酸化は1,2-アンチジオールも酸化開裂できる有用反応

1,2-ジオールは、生体内での分子認識に欠かせない水素結合供与体であるアルコールを近接して持っていて、生理活性医薬品や機能性分子にも多く見られる官能基です。 ビシナルジオール(vicinal diol)とも呼ばれるこのジオールが隣同士で水素結合を形成できる…

過ヨウ素酸ナトリウムは1,2-ジオールの炭素-炭素結合を切断できる酸化剤

炭素-炭素結合は、有機化学のなかでも基本的な化学結合のひとつです。 多くの有機化学者がこの結合を作るために、何世紀も前から現在にわたって努力を続けています。 多くの炭素-炭素結合は化学的に安定であり、天然物など生物活動で使用される有機分子を形…

Pfitzner-Moffatt酸化はDCCを脱水剤とするDMSO酸化

Swern酸化に代表されるDMSO酸化には、活性化剤が異なる多くのバリエーションが知られています。 DMSO酸化が大きな酸化剤グループとなった理由に、DMSOの入手のしやすさ、値段の安さ、毒性の低さなどが挙げられると思います。 酸化クロムを用いるクロム酸酸化…

Evans-Tishchenko反応は分子内ヒドリド移動を利用したケトンの立体選択的還元

天然からは、長い炭素鎖上に一つ置きに2級水酸基が多数置換した天然物が単離されることがあります。 ポリケチドと呼ばれるこれらの有機分子は、その生合成においてアセチルCoAという生合成単位が、次々と連結反応を起こして形成されています。 連結直後はケ…

Tishchenko反応はエステルを合成可能なアルデヒドの不均化反応

分子の二量化反応は、一種類の化合物2分子が合体することによって、1つの新しい分子を形成する反応です。 シクロベンタジエンは有機合成でよく使われる合成素子ですが、単量体はそこまで安定ではなく、Diels-Alder反応が進行したダイマー(二量体)として…